ご質問にご返信いたします
セミナーや研修などで、ご質問をいただく機会がたくさんあります。直接、私には訊けなくても、アンケートならば書きやすいからでしょうか。多くの質問は、かなり抽象的です。悪い意味ではありません。ただ「これから、調達部員は、どんなスキルが必要でしょうか」といった類のものです。
そこで、この場を借りて、ご返信します。
1.交渉力、土下座力が重要になってくる
私はかつて交渉というものを否定しました。「交渉するやつはバカ」とまで書きました。交渉以前の条件整備だとか、競合環境を作るだとか、しっかりとした見積依頼書を作成するほうがはるかに大切だからです。
しかし、これ以降は業務の標準化とIT化が進むにつれ、逆説的に交渉力の価値が高まるはずです。誰もおなじ情報をもっている。でも、誰かの意見を採用しなければならない。こんな状態のとき、一人ひとりの交渉力が左右します。そして、交渉力とは、場を読む力であり、そして、明瞭に自分の意見を伝える「勇気だ」といっておきます。
ときには土下座して、自分をさらけ出してでも、なんらかの成果を得る勇気も必要でしょう。
2.弱いつながりが必要になってくる
一つの職場に居続けると、どうしても情報が偏ってしまいます。転職をしろ、という意味ではありません。たくさん動き回って、通常なら会う可能性のないひとたちから、刺激を受けるべきです。これは、異業種交流会に行け、という意味でもありません。
たとえば、新たなテクノロジーの勉強会に行ってみる。世界情勢のレクチャーを聞きに行く。金融システムや、サプライチェーンの先端知識に触れに行ってみる。なんでもいいんです。極端な話、趣味の領域でもいい。自分の世界をひろげて、「弱いつながり」の個人をどんどん増やしていく。そのなかから、新たな発想が生まれるはずです。
3.プレゼンテーションから熱狂が重要
以前、プレゼンテーション力が必須スキルだといわれました。現在も大きくは変わりません。しかし、私はそれを熱狂で置き換えてみたいと思います。たとえば、ある調達パーソンがいるとします。新しいプロジェクトの決裁を得ようと、上司と話しているとします。そのとき、「こういう理由で、こうですよ」とロジカルなプレゼンテーションをするのがこれまでの時代。
これからは、「理屈抜きに、これをやりたいんです」と熱狂こそが人間を動かすのではないでしょうか。ちなみに、熱っぽく語るのは訓練が必要です。でも、熱狂しながら語る練習をしてみてください。
もはや、私たちにとって、善悪とか正誤とかいったものは、心を動かす力をもっていません。これから重要となるのは「これを信じてみたい」と思う、心の震えのみです。
私は、おおげさにいえば、「最適購買」ではなく「感動購買」ともいえる熱狂を、調達・購買の世界にもたらしたいと考えています。(坂口孝則)