プレゼンテーションと調達・購買担当者

昔、五木ひろしの夢を見た。

こういう一文で原稿をはじめたのは、音楽界の鬼才・近田春夫さんでした。週刊文春での連載「考えるヒット」でのことです。90年代でした。この圧倒的な一文の凄さ。だって、五木ひろしさんの夢を見るなんてありえますか。近田さんの初期の連載では、このように読ませる一文目があふれています。もう一文目で勝負ありです。

他人に何かを説明する。この行為から無縁のビジネスパーソンはいません。しかし、ときに説明力、かっこよくいうとプレゼンテーション力ですが、は軽んじられています。ただ、AI時代に人間力の発揮の意味で、もっとも重要なスキルではないでしょうか。

社内外でプレゼンテーションをする際に、「資料が見にくい」といった批判があります。また、講師が講演や研修をするときに、「室内が暑かった」とか「隣の部屋の音がうるさかった」といった苦情があります。そんなとき、プレゼンターは、つねに「ああ、だから私の話を聞いてもらえなかたんだ」と思い込みます。もちろん、資料の体裁や、室温や静寂は必要です。ただ、あえていうと、それが本質ではありません。プレゼンターの話がまったく面白くなかったから、些末なところが気になってしまうのです。逆ではありません。

たとえば、みなさんはアーティストのライブ、コンサートにいったことがありますか。あまりにも感動的な演奏だったら、会場のこととか、暑かったとか愚痴らないと思います。演奏の圧倒差の前には、些末なことは問題になりません。

資料体裁のセミナーをやっていてなんですが、問題は、そのひとの話が面白いかが重要なのです。冒頭で近田さんの例をあげましたが、内容や発想が面白ければ、細かな文体は問題になりません。たとえば、マーケティングのセミナーや、交渉のセミナーでは、「やり方次第でなんでも売れる」とか「交渉次第でなんでも安くなる」といった観点から語られます。しかし、ほんとうは違うのです。良い商品があれば売れますし、調達条件が良ければ安く買えるのです。小手先のテクニックは、つねに本質に負ける運命です。

おそらく、これをお読みのみなさんは、誰かに説明する機会が多いはずです。では、どうやってプレゼンテーションを上手にやれるのか。私も道半ばです。ただ、10年にわたって、説明を仕事にしてきた私からすると、結局は、一つの凡庸な結論に行き着きます。主語を「あなた」にすることです。「この商品をがんばって開発しました」ではなく、「この商品によってあなたがこう変わる」ということ。「このプロジェクトは、こういう意義があります」ではなく、「このプロジェクトで、あなたにこんなイイコトがありますよ」ということ。「世の中では、これが話題です」よりも、「これは、あなたにとって、こう役立ちます」ということ。そして、何よりも、近田さんのように、興味を換気すること。

そして、付け加えていえば、プレゼンテーションは型を意識する必要はありません。スティーブ・ジョブズでも、キング牧師でも、オバマ大統領でも、誰でもいいのですが、あれって誰かと似ていますか。ああいうのを模倣しろというひとがいます。しかし、独自のスタイルですよね。スティーブ・ジョブズではないのに、ああいうプレゼンテーションをしても、ときには滑稽なだけです。そうではなく、自然体でやればいいのです。それぞれのスタイルがあっていい。そのためには、スマホであなたが説明している様子を撮影することです。見たらとても恥ずかしくて耐えられない。でも、それが最大の向上策です。そのうち、自然な感じでプレゼンテーションできるでしょう。

最後に。プレゼンテーションはなんのためにするのでしょう。究極的には、話を聞いた人が、なんらかの一歩を踏み出すことだと私は思います。そのためには、そもそも話をする側が、自分の話す内容の効用と昂揚を信じている必要があります。すくなくとも、熱意をもっているようにワザとでもいいので話す必要があります。でも、安心してください。フリでも、熱意をもっているように話せば、そのうち、ほんとうに熱意をもってしまいますから。

(今回の文章は坂口孝則が担当しました)

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