【提案です】現場を重視する調達部員になるな
フィリピンに仕事で行った際、グラブタクシーを使いました。日本でいう、いわゆる白タクで、一般人ドライバーと乗客を結ぶサービスです。ウーバーが世界的には有名ですが、そのアジア版です。しかし、それにしても便利で、かつ、グラブに登録している車のレベルがどんどんあがっています。
以前は、コンパクトカーなどが中心でした。しかしいまではラグジュアリーカーまであります。なぜでしょうか。もちろんアジアの所得が上がったからです。少なくとも、そう解説されています。ただ、実際に現場に行って、運転手に訊いてみました。すると意外な答えでした。
「ラグジュアリーカーのほうが料金が高いから、グラブでの収入を見越して買ったんだよ」と。
なるほど、これは訊いてみなければわからない理由でした。投資対象になっているのです。そのまま、ショッピングモールに移動しました。すると、これまた、まとめ買いするひとが多く、それこそアジアが大成長している象徴として語られます。
それにしても、あんなにまとめ買いしてどうするのでしょうか。日本は豊かでしたが、その時代に主婦たちは小口で買物をしていたではないですか。ということで、訊いてみました。すると、面白い結果でした。
「これは仕入れだ」というのです。
地方の商店は、日本ほど卸売が発達していません。だから、売るより、そもそも仕入れが問題なのです。だから、そこそこの価格でショッピングモールでまとめ買いできれば、これほどありがたい仕入先はないというわけです。へええ。これも、訊いてみなければわかりませんね。
だから、現場論が好まれるのです。誰も知らない、わかっていないことが、現場には眠っている。たしかにそうなのです。だから現場こそがすべてと考えるひとたちがたくさんいます。生産の仕事をしているのであれば良いでしょう。しかし、私は、調達・購買の人間が、現場だけを重視するのは危険だと思うのです。
なぜならば、現場には、たしかに真実があります。しかし、その真実はあくまでも現在の真実なのです。サプライヤの生産現場で、生産手法を学ぶのは良いのですが、しかし、現在の枠を超越した思考は出てきません。生産自体、もう、辞めたらどうか。それは工程を眺めても、なかなか出てきません。だから、日本勢は、アップルに負けたのです。
「現場を重視する調達部員になるな」と書きました。正確には「現場だけを重視する調達部員になるな」となるでしょう。現場からは絶対に出てこないアイディアを、無謀にも発することも、やはり忘れてはいけません。
私は、製造業は、製品から利益を稼ぐのではなく、生産を通じたノウハウを外販するようになると思っています。いや、少なくともそう舵を切る必要があるのではないでしょうか。GEが飛行機エンジンそのものではなく、そのデータを活用し燃費の良い飛行をアドバイスするように。ということは、世界のなかでもっともサプライヤと触れ合う機会の多い、日本の調達部門は、その指導ノウハウを、コンサルティングという形で世界に販売しても良いはずです。
買う部門だったはずの調達機能が、コンサルティングという販売を兼ねるようになる。これくらいの突飛な提案こそが重要になってくるのではないか。それは、製造業から、情報製造業への脱皮も意味していると思うのです。
調達担当者は現場に行くのと同じくらい、妄想もせねばならない、と私は思います。
(今回の文章は坂口孝則が担当しました)