調達担当者は「情熱大陸」に出演できるか問題

以前、私は飛行機のなかで「お客様のなかにお医者様はいらっしゃいませんか?」ではなく「お客様のなかに調達担当者様はいらっしゃいませんか?」といったフライトアテンダントからのアナウンスがありうるかを考察したことがあります。「すみません、フライトの予算があわないんですけれど、どこかコスト削減できる余地がありませんか」とか。あるいは「他のお客様が、原価積算ができないと眠れない様子ですから、お手伝いいただけませんか」とかでしょうか。冗談です。

ところで、なぜこのような話をしたかというと、調達という仕事が地味で、一般的には「何をやっているかわからない」存在だからです。エンジニアがプロジェクトXに出演することはあっても、調達担当者が脚光を浴びるとは考えにくい状況があります。もちろん、一部では取り上げられるとはいえ、まだまだです。しかし、目標設定しなければ、そもそも高みには至りません。

いま話題になっているマンガ「情熱大陸への執拗な情熱」があります。ウェブでも読めます。爆笑ものです。「この男の朝は洗濯物を畳むことからはじまる…」と自分でナレーションをつけてしまうほどの、情熱大陸マニアの著者です。なんとしてでも出演したいため、過去放送を何度も見直す著者。そして、何をやったら情熱大陸からオファーが来るのかを考え続けます。

そして、著書の最後に書かれるのですが、ついに著者は情熱大陸のプロデューサーと会うことになり……(以下、自主規制)。なぜだか読後に感動的な本です。最初は荒唐無稽な目標かもしれません。田舎で働いていた漫画家が、情熱大陸に出演するなんて夢のまた夢だったかもしれません。それに、夢をもつ多くのひとは、それに敗れ頓挫していくかもしれません。でも、人間は自分が思った以上にはなれないものですから、自分を卑下するひとは、何もできないでしょう。

では、調達担当者は「情熱大陸」に出演できるでしょうか。いや、逆に何を成し遂げたら、取材に来るでしょうか。いまの職場なら無理だ、とか、いまの仕事では無理だ、と考えるひとはきっとどこにいっても難しいとは思いますよ。

そこで、思い出したことがあります。私のもとに、たまに、若いひとからメールをいただくことがあります。悩み、葛藤、苦しみ、もがき、呻吟、もう辞めてしまおうかという苛立ち……。そこで、そのなかの一つ。1年前のものです。私は返事をしていないのですが、この場で返信をしようと思います。詳しく書くと組織が特定されてしまいますので、概要を書きます。その相談者の上司は、性格的にすごくいいひとのようですが、部長のいいなりになっているようです。それで、上司が断れなかった仕事がたくさん降ってくる、上司を困らせるわけにもいかない。でも、仕事が多くて、さらにつまらない。やる気がなくなっています、といった内容でした。たぶん、相談者は22歳か23歳くらいではないかと思います。

<私からの回答>
きっとあなたも、もうちょっと社会人経験を重ねると、ほんとうは善人で、しかもしっかりと会社のことを考えているのに、コンニャクのように弱いために、その実力を発揮できないひとがいかに多いかと気づくでしょう。上司に意見をいうこともできない、かつ会社を辞める勇気もない。だから結果として、使われる善人がたくさんいるのです。そしてその善人が上司になってしまうと、弱いゆえに、自分のみならず部下にも余計な仕事を作ってしまい、不幸の総量を増やしてしまう場合がきわめて多いのです。これを覚えておいてください。よくみんなは、出世欲にまみれたひとや、声だけ大きい間抜けを馬鹿にします。ただ、そのいっぽうで、強さを欠いた善人や、必要な主張ができない弱さも、おなじく虚しいことが多いのです。あなただけでも、そうならないでください。

さて、ふたたび問おうと思います。あなたという調達担当者は「情熱大陸」に出演できるでしょうか。いや、逆に何を成し遂げたら、取材に来るでしょうか。

(今回の文章は坂口孝則が担当しました)

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