「いかにして会社の金を胡麻化すか」

調達・購買が世間的に注目されているかどうか、それは映画や小説に調達・購買部員が描かれているかでわかります。調達・購買を主役にしているドラマや映画は多くありません。以前、中井貴一さんが主演した「燃ゆるとき」という映画がありました。ただ、あれは営業が中心で、調達・購買はサブ的な役割でした。

私もすべての小説を読んでいません。ただ、これまで、調達・購買関係者をもっとも主役級で描いたのは、筒井康隆さんの「俗物図鑑」ではないでしょうか。もしお読みになったことがなかったら、一読の価値があるでしょう。今回も、アマゾン等のリンクを貼ってしまうと、このメールマガジンが届かない可能性がありますので、リンクは貼りません。ご自身でご検索ください。とにかく笑ってしまうはずです。

この「俗物図鑑」ですが、あまりに酷すぎる登場人物ばかりで愉しい小説になっています。この小説では、企業の資材課長である本橋が登場します。この関西人の本橋が抱腹絶倒なのです。「そもそもわたしは、会社からは金を盗むべきやちゅう主義主張を持っとりましてな。会社に搾取されるだけが能やない。人間すべからく自分の会社の金はできる限り仰山胡麻化さなあかん」といってしまうほどの人物なのです。

この小説では、本橋という現役の資材課長が、どうやって会社の金を盗み取るかの実例が、これでもか、これでもか、と列記されます。汚職と賄賂と、悪しき商習慣がひたすら書かれます。本橋という小説上の主人公を通じて、どうやって会社の金を吸い上げるかがずっと書かれています。あまりに酷いので、笑ってしまうほどです。その他にも、多くの俗物的な職業人が書かれています。ただ、私は小説「俗物図鑑」を、単に面白いから紹介しているわけではありません。

この小説で書かれた資材調達のあり方が、さほど現代と変化していないように私には思えたからです。

同小説で本橋は、会社を辞め、なんと「いかにして会社の金を胡麻化すか」なるタイトルの書籍を発行し、それが大ベストセラーになってしまいます。ひでえタイトルですよね。そして、一般人が経験できないようなメディア出演を経て、文化人の仲間入りを果たします。会社員時代よりも多くの年収を得、そして、人生を謳歌します。

さらにこの本橋は、会社の金を使って飲み歩いたスナックのママとも、複雑な関係になっていきます。この小説が秀逸なのは、本橋の行き着く先です。もちろん会社の金を使い続けたのですから、ハッピーエンドではありません。しかし、バッド・エンドでもなく、余韻を読者に残します。結局、この人生が良かったのか、あるいは悪かったのか。ぜひ、ためしにお読みください。

ただ、資材調達というと、どうしてもクリーンなイメージとはかけ離れているのでしょうか。「俗物図鑑」から数十年がたちます。そろそろ、資材調達を舞台にした、高潔な物語が必要な気がします。誰か書かないでしょうか。私が書こうかな。(坂口孝則)

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