これまでの常識⑤-1・・・競合だけでコストを下げようと思っている「いつでも競合で下げることができるのか」(調達・購買とは何をするのか)

「競合で決めればいいじゃないっすか」

教科書に書かれていることと現実に横たわるギャップを知ることが「大人になる」ということの本質ではないか。

と、突然、教訓じみたことを言ってしまいました。これは、私がバイヤーという仕事を始めて感じたことです。

仕事を始めて数週間経ったとき。一緒に仕事をやっていた先輩バイヤーから、「競合の準備をしようか」と言われました。なんでも新しい製品の発注先を決めるときに、「いくつかのサプライヤーから見積りを入手して、最安値のところを見つけるのだ」とのことです。私は、「おお、これがバイヤーという仕事なんですね」と、わくわくしたことを思い出します。

設計者からもらった仕様書をサプライヤー毎にコピーし、それぞれにカバーレターを作り、提出期限を書き、私の名前を明記し送付する。期限まで2週間でしたので、不明点については私に各サプライヤーから質問の電話やメールが届きます。分からないことばかりでしたが、相談したりして、なんとか答えていきました。慣れてしまった現在ではなんとも思わないものの、自分の発した書類に対してサプライヤー各社が動いてくれるというのは、「働きがい」を感じるのに十分なものです。

2週間後にサプライヤー各社から見積りが届きました。私は、最安値のサプライヤーの見積りを手にして、「ここに決まりですね」と先輩バイヤーに問いかけたところ、意外な答えが返ってきたのです。「ああ、そこは自分のところの標準品で提案してくるんで、たいていはこちらのスペックに合っていないんだよ」と。私がすぐさま「なるほど。じゃあ、こっちの条件に合うように、再提案してもらいましょうか?」と尋ねると、「そんなの、ムダだからやめとけよ」と言われました。すると、違うサプライヤーの見積りをつかんで、「ここ(見積り順位で3番目)から買いたいから、ここに注力して交渉しよう」と。

私は若干、混乱したことを覚えています。なぜ、そこから買いたいのであれば、なぜ競合などするのだろうか、と。訊いてみれば、どうやら提案仕様が合致するのは、そのサプライヤーしかないそうです。「こっちが満足できる仕様を作れるのは、ここだけなんだよ」と。

私は、「じゃあ、なんでそこだけに見積りを依頼しなかったのですか?」と訊いてみました。すると、「競合で下げたいから、あえて他社との相見積りとしているんだよ」とのことです。私は違和感を抱きながらも、その「本命」サプライヤーに電話をかけ、「他社が、結構安い金額を提示してくれているので、もうちょっと安くしてくれないか」と問いかけました。相手は考えて、他社のレベルに合わせてくれることを合意してくれたのです。こういうものか、とも思いましたが、なんだか、発注先が予め決まっている公共設備の談合と何が違うのだろう、と考えてしまいました。

その後のことです。私はずっと同じやり方で競合を繰り返していました。5社に競合見積り依頼をしたとしても、発注の可能性があるのはせいぜい1~2社くらいのものです。見積りを取っては、本命のサプライヤーに「もっと安くしてよ」を繰り返す。

そんなときのことです。唯一の本命のサプライヤーが、他社よりも3割も高価なことがありました。「困ったな」と思いながらも、いつもの通り、交渉を開始するしかありません。しかし、このときそのサプライヤーがこれまでと異なっていたことは、全く価格を下げようとしないのです。私は、表面上は冷静を装いましたが、困り果てて、「これじゃあ発注なんかできませんよ」と言ってしまいました。すると、営業マンは、「そりゃ、こっちも一緒ですよ!競合なんでしょ!それなら、発注先は競合の結果で決めればいいじゃないですか!こっちは見積りを出したんです。それで、ダメなら、他社に発注してくださいよ!」と。

私は何も言えず、言葉を濁すしかありませんでした。このとき、私は出来レースの限界と、「何でも競合しさえすれば下げることができる」という教科書的言説の限界を知ることができたのです。

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