シングルソースサプライヤに対処する方法(牧野直哉)

このメールマガジンに寄せられる、あるいはセミナーの会場で受ける質問は、必ず「シングルソース(独占状態)サプライヤ」の問題と対処に関する内容が多く含まれています。独占状態によってサプライヤのコントロールがままならず、自社の業績におよぼす思わしくない影響に頭を悩ませているバイヤーが多いのでしょう。4月に発生した熊本地震でも、ある自動車メーカーの多くの車種に搭載される部品を生産する工場が被災し、工場の稼働が停止しました。5月に納入予定の新車は、2週間ほど納期遅れが発生しています。シングルソースは、平常時と非常時の双方に、バイヤーには思わしくない影響をおよぼす可能性を持っています。

ここで読者の皆様に質問します。本当にシングルソースサプライヤが問題ですか。例えば、購入コストが下がらない場合に「数量がまとまらない」といった理由を持ちだしていませんか。数量をまとめるには、同じ部品、同じ製品群の購入品を発注するサプライヤは、できるだけ少ない方が良いはずです。発注数量がまとまるメリットがある半面で、1社しか発注先がないサプライヤに悩むとはいったいなぜなのでしょう。1社にまとまっていれば、経済効果によってより低い購入価格が実現できるはずです。シングルソースで悩む場合、その多くは「競合できない」状況が問題です。では、なぜ競合できない状況が問題なのでしょうか。災害発生時の供給が制限される可能性が高まる問題と、競合による競り下げ効果が期待できない点が、最大の問題であるはずです。競り下げ以外の購入価格低減手段を持っていないバイヤーの姿が、問題の根源です。

これまで、20年余りの私のバイヤー人生は、シングルソースサプライヤとの戦いの歴史と言っても過言ではありません。しかし、これまでに私が経験したシングルソースも、状況を分析すると、大きく4つに分類されます。それぞれシングルソースに陥っている原因は異なります。シングルソースサプライヤ(単一供給元)」といっても、「シングル(単一)」となっている理由はさまざまです。原因や理由がさまざまであれば、その対処法も多岐にわたります。今回の連載では次のような進め方で、どうやってシングルソース状態を打破するのかを考えます。

1.シングルソースサプライヤによって生じる問題の本質を理解する
(1)日常時の問題
(2)非常時の問題
(3)調達・購買部門にとっての問題
(4)シングルソースの定義

この章では、シングルソースによって調達・購買部門では具体的にどんな問題が発生するのか。これから対応策を検討する上で、正しく自分達が直面するシングルソースにまつわる問題点を明確にします。また、調達・購買部門が安易にシングルソースを理由にしないための正しい理解を目指します。

2.シングルソースになってしまった原因
(1)サプライヤ要因
(2)市場要因
(3)チャネル要因(流通要因)
(4)バイヤー企業要因

発生している問題から、シングルソースに至った原因を4つに分類して解説します。これは、バイヤー企業やサプライヤといった当事者の視点ではなく、両社の関係を俯瞰(ふかん)する視点から解説を加えて、シングルソース状態の理解を深めます

3.シングルソース状態分析と対応策
(1)物理的なシングルソース
(2)心理的なシングルソース
(3)悪影響の本質の特定~シングルソースを言い訳にしない方法

自社が直面するシングルソースを分析する方法を学びます。シングルソース化したサプライヤにある優位性を突き崩し、調達・購買部門/バイヤーの内なるシングルソース認識を打破する方法を学びます。

ここで連載の最初だけ、シングルソースサプライヤに対峙(たいじ)する際の精神論を述べます。シングルソースサプライヤ化した要因が、サプライヤの取り組みにある場合、その時点でサプライヤの勝利です。これは、サプライヤが自社の生き残りを懸けて取り組んだ結果です。そういったサプライヤには、バイヤー企業の従業員として、より良い購入条件は求めつつ、シングルソースとなった取り組みの成功には敬意を払うべきです。その上で、そういった状態の継続を認めるのか、それとも状況の打破を目指すのか。シングルソースの打破は、「どこか他にサプライヤがいるはずだ」「なにか他に良い購入条件を引きだす手立てがあるはずだ」とバイヤーが信じるかどうかです。あきらめないバイヤーには、きっと福が来るはずです。

<つづく>

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