ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
●社内関連部門とのコラボレーション力 4~生産管理部門
生産管理部門との協業は、大きく事前の準備的な要素と、事後のトラブル処理的な要素の2つになります。調達購買部門でサプライヤーから製品やサービスを購入する際、購入指示は生産管理部門で作成された生産計画によっておこなわれます。こんなもの(仕様)を、これだけ(量)買ってね!と指示を受け、調達購買部門では①サプライヤーと、②価格を決定するのです。文字通り、生産管理部門は、調達購買部門の前工程です。その連携は、製造業においては特に重要となります。
生産管理部門との協業を一言でいえば、ミスマッチ(不整合)をどのようにして避け、発生したときにどのように事態を収束させるかになります。
☆ミスマッチをどのように避けるか
皆さんもこんなご経験はありませんか。
Case1:サプライヤーの納入リードタイムを無視した短納期設定
Case2:サプライヤーの生産能力を大きく超えた多発注数量設定
QCDにプラスされる言葉に、F:Flexibility(柔軟性)があります。当然、需要変動への迅速な対処は必要です。しかし、需要変動の対処を、なにもかもすべてサプライヤーまかせとすることは避けましょう。上記Case1、2とも需要変動がプラスへ動いた場合を想定しています。プラス=増えるからいいだろう?!というわけにもいきません。もし需要があるとの前提で、製品の供給ができなければ、販売機会を失います。無理な注文書を発行したサプライヤーとの信頼関係も損なわれる可能性があります。
この場合、事前の対処方法としては、バイヤー企業からサプライヤーへの連絡方法で、無理な注文内容から受ける印象も、大きく異なってきます。いきなり上記の例にあるような注文書がいきなり送られてきた場合、サプライヤーの担当者はどのように感じるでしょうか。もちろん、すぐにアクションを起こしてくれる人がほとんどだと思います。しかし、内心はどうでしょう。サプライヤーの営業パーソンの先には、サプライヤー社内の関連部門があります。一筋縄では解決できない難題を前に、途方に暮れているかもしれません。一方、注文書をサプライヤー側の担当者が見る前に、担当バイヤーから
「合意しているリードタイム(量)ではないけど対応可否を確認してほしい」
という一報を入れた場合を考えてみます。サプライヤーが受ける印象もずいぶん変わってきます。本来であれば、バイヤー企業側の受注量が増加し、結果サプライヤーへの発注量が増えることは、両社の関係にプラスになるはずです。そうしなければならないのです。しかし、無理な量やリードタイムを一方的に注文書で連絡することは、良い印象はありません。「増えるのだから良いだろう」というのは、いかにも横柄ですしね。
ミスマッチで問題となるのは、もちろん過去に提示した購入見通しに対し、実際の発注量が減少してしまう場合も同じです。繰り返し発注されるのであれば、多少の余剰は次回納入に回す処置をサプライヤーが講じてくれる可能性もあります。しかし、想定を大きく下回る量しか購入できない場合は、在庫をどうするのか。生産に初期投資が必要で、その償却も未回収であれば、その面への補償を要求される可能性もあります。そのような事態に陥ることなく、円滑な購入を継続するには、どうすれば良いでしょうか。
☆需給ミスマッチの解決策
このような問題には、次の3点を基本に対処します。
1. 許容する変動率を設定する
変動の前提となる数量として、
(1) あらかじめ設定した購入量
(2) 内示→注文確定となるタイミングでの前回予定購入数量
として、その数量に対し±××%の変動には対応することをあらかじめ契約しておきます。これは一定の在庫量をサプライヤーに準備してもらうことになります。繰り返し購入する場合に適用します。単発での購入に際しては、適用が難しい手段です。
2. 設定した変動率を超える変化の可能性を全社的に討議し確認
近年厳しい市場環境の下、どんな条件でも受注する傾向が強まっています。従来よりも短納期で納入が実現すれば、売上が確保できるのでメリットでもあります。購入量も増加することは、調達購買部門としてサプライヤーとの関係強化に、なによりも有効です。調達購買部門としては、購入量の増加を、サプライヤーとの関係強化であり、影響力を強めることに利用しなければなりません。量も増えて、納期でトラブルを起こし、結果サプライヤーとの関係も悪化したのでは、結果残るものがありません。そのような事態は、絶対に回避しなければなりません。
円滑な納入にも影響を与える「大きな変化の予兆」は、終わってみて「あぁ、あの時期がそうだったなぁ」と思い返すことだけでは不十分です。どんな条件でも受注するという気合いだけで、サプライヤーから購入することはできません。販売機会の損失が発生するとき、その影響をもろに受けるのは営業です。であるならば、あまりにも急激な変動への対応は難しいことを、その変化が起こる前に営業へ伝えます。伝えるだけではありません。「変化の兆候」を、営業部門、生産管理部門と共同で読み解きます。その際に調達購買部門から提供するネタは、次の3の対応で得た情報を社内にフィードバックします。
3. サプライヤーの生産能力(余剰能力)を定期的に掌握し社内へフィードバック
バイヤー企業の社内で「変化の兆し」を見極めるために、サプライヤーの生産能力、特に余剰能力へ注目します。企業は販売側=営業と購入側=調達購買で市場に接して事業を運営します。片方の市場だけが著しく増加することはありません。したがって、変化の兆しを販売側だけでなく、購入側でもサプライヤーの状況によって一つの判断材料を獲得するのです。ここで、
「御社の生産余剰能力は、どの程度ですか?」
と正面から質問しても、回答をもらえないケースもあるでしょう。その場合は、普段のサプライヤー担当者のコミュニケーションで、
「これから(発注量が)増えても大丈夫?」
「他の会社の動きとか、どう?」
「儲かっている?」
といった言葉で話のきっかけをつかみ、詳細のヒアリングをします。
このような取り組みの結果で、最初から成果を得られる可能性はとても低いかもしれません。しかし、大きな変化が予期せず始まってしまった場合、その影響はとても大きくなり、サプライヤーの言い値で、それも懇願して発注しなければならなくなります。このような取り組みは、数量の減少局面においても有効であり、他社が減少傾向にある中で、自社がそうでない場合、確固たる理由がなければ、結果在庫の山を築くことになります。そうなる前の取り組みに、調達購買部門として、市場からの情報収集という形でスタートし、需要の見通しに参画することが重要なのです。
☆トラブル対応~納期問題
いろいろな準備を講じたとしても、100%納期トラブルを防ぐことは難しいのが現実です。したがって、納期的な問題が発生した場合は、生産管理部門との協力で、事態の打開に主体的に取り組まなければなりません。
まず納期トラブルが発生した際には、最初は原因究明でなく、どのように納期を改善するかに重点をおきます。また、納期を調整するためのサプライヤーとの窓口を、調達購買部門に一本化します。最終的に守るべきは、顧客との契約納期です。その期日を達成するために、どのような対応が採れるのか。また、サプライヤーの譲歩を引き出すためにも、自社がどこまで譲れるのかという情報を、生産管理部門から入手して調整します。サプライヤーから最大限の譲歩を引き出すためにも、自社のバッファをすべて提示する準備が必要です。トラブル発生の後、解消までは、納期遅延の責任論はいったん棚上げして、問題解決にのみ注力します。トラブルが解消した後に、いったいどこに問題があったのかを、サプライヤーと共に原因究明と改善をおこないます。
納期トラブルが発生すると、原因はどうあれ「納期遅れ」といった表現が、社内を駆け巡ります。原因究明が終わるまで、どこの責任かはわかりません。したがって「納期遅れ」との表現ではなく、納期のミスマッチによるトラブルであることを、社内に明言しましょう。実際にほんとうの原因はわかっていないのです。そのような姿勢は、ビジネスのフェアーさを社内外に示す、調達購買部門の重要な持つべき姿勢なのです。
<つづく>