ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・ほんとうの中小企業の切り方の話をしよう

今回は、えらく血生臭いテーマを取り上げてみたい。「中小企業の切り方」だ。正しい、そして、ほんとうの「中小企業の切り方」などあるのだろうか。

時代背景としては、いくつかあげることができるだろう。まず、バイヤー企業の発注量の総額が減じていることだ。新聞報道を取り上げるまでもなく、各社の生産シフトが加速している。これまで日本で生産していたものも、これからは海外で生産するというわけだ。そうなると、日本から調達した部材を海外に送るよりも、海外のサプライヤーから調達する選択肢が出てくる。これは当然の帰結だ。

また、その流れと軌を一にし、サプライヤーマネジメントの強化が謳われだした。これまで野放図にサプライヤー数を拡大していったところ、たくさんのサプライヤーを「食わせ続ける」ことができない状況になった。これからは、優れたサプライヤーに優先的に仕事を与え、QCD(品質・コスト・デリバリー)各方面の競争力を向上させていく。これも考えてみれば当然の帰結だろう。

さて、メディアでは、大手メーカーがサプライヤー数を3000社から1000社に絞っただの、絞るだのと報じられている。そのなかの多くは失敗しているが、今回はそれがテーマではない。私の関心は「サプライヤーを絞るっていっても、中小企業をそんなに簡単に切ることができるのかい?」という点にある。

さらにそれは二つの意味があるだろう。

・下請法、下請中小企業振興法など社会ルールに則った「正しい」やり方とは何か
・法に限らず、商売上の倫理を踏まえた「正しい」やり方とは何か

おそらく読者の企業でも、サプライヤーの絞り込みが検討されているだろう。その際は、次のようなステップを経る。

(1)サプライヤーのパフォーマンス情報の収集(QCDや経営能力等)
(2)サプライヤー評価、格付け
(3)発注額を伸ばすサプライヤーと、取引を停止するサプライヤーの決定

この(3)において、中小企業が、とくに今回のテーマでいうならば、下請法対象企業が、「発注額を伸ばすサプライヤー」と認定されるのであれば、問題はないだろう。しかし、それが中小企業、それに下請法対象企業だったら? これまで仕事を依頼していた中小企業にとってみても、経営が立ち行かなくなる可能性があるだろう。それは、中小企業の育成を目的とした法の精神にも逆らうことは想像に難くない。

ただし、だ。あまりにも評価の低いサプライヤーであっても、「何が何でも中小企業と死ぬまで付き合え」とは法は命じないだろう。この程度は想像できる。

ここから、今回の本題に突入しよう。

・法はなんと命じているのか

ここで、一つの図を見ていただきたい。

<クリックすると大きくすることもできます>

これは、「下請中小企業振興法(振興基準)」からの引用だ。これによると、「第2 親事業者の発注分野の明確化及び発注方法の改善に関する事項 7) 取引停止の予告 親事業者は、継続的な取引関係を有する下請事業者との取引を停止し、又は大幅に取引を減少しようとする場合には、下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう配慮し、相当の猶予期間をもって予告するものとする。」としている。

ここで、いくつかの留意点が導けるだろう。

・継続的な取引を有する下請事業者が対象
・大幅に取引額が減るときに問題となる
・相当の猶予期間をもって予告しなければならない

はて、困った。上記の書き方が曖昧なのだ。

そこで判例を調べてみると面白いことが分かる(判例文には著作権があるのでここではあえて引用しないが)。まず、「半年くらいは猶予もって切りなよ」と言っているものがある。この判例では、取引先の半年分相当の利益額を補償することになっている。では、半年の猶予があってはいけないのか。他の判例では、必ずしもそうではない。半年以上の猶予期間をもってせよ、というものもある。

つまり厳密な法解釈のもとでも、司法が命じている内容にばらつきがあるのだ。

では、せめて「一つの基準」となるものはないか。弁護士の方に訊いた結果は、次のとおりだ。。

<クリックすると大きくすることもできます>

これによると、

・依存度が大きい(50%程度以上)のサプライヤについては
・1年程度(他者からの受注が見込める期間)をおいて
・予告した上で取引を停止する

としている。つまり、年商2億円のサプライヤーがいるとして、その1億円程度の売上高を1社(すなわちあなたの企業)から受注している場合は、1年の猶予をもちなさいよ、といっている。

これは他者(この場合は他社がふさわしいかもしれない)から、それ相当の受注ができるまでに営業努力として必要な期間といことらしい。

ただ、1年を待ったからといって、いきなり切ってしまうのは商売上の倫理に反するだろう。「はい、オタクはダメなんで取引停止ね」ではなく、改善依頼期間を設けることが必要だと言われている。

それが下記図だ。

<クリックすると大きくすることもできます>

これを見ていただければわかるとおり、まず、「発注削減期間」の前に、「改善依頼期間」を置いている。これによって、評点の改善を依頼するのだ。QCDに加えて経営評価を行っているのであれば、その評点の何が悪いかを伝達し、それによる改善をお願いし、かつ、一定期間を置くことで、評点の改善を確認せねばならない。

ああ、ややこしい。中小企業を切るというのは、ここまでややこしい過程を経る必要があるのか。これはコンプライアンスや風評被害までをも考えたプロセスではない。よって、そこまで考えるのであればさらに複雑かつ長期間が必要となるだろう。かつて私の上司は、「下請法」や「下請中小企業振興法」を守るためには、下請法対象企業と付き合わないことだ、とまで述べた。それに完全に同意しないものの、理解できる側面はある。

では、次回は後半で述べた、「発注削減期間」や「改善依頼期間」における取り組みをさらに見ていこう。

<つづく>

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい