ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・在庫が悪いというのはどういうことなのだろうか~パート2

在庫がなぜ悪いのか。このことについて考えたい。調達・購買担当者はモノを買う。その行為は、自社在庫の量を増やす(=在庫化する)ことに密接に関係している。必要なぶんだけ調達すればいいだろうが、なかなか上手くいかない。10個しか必要ではないものを、100個買わねばならないことだってあるだろう。

いや、むしろこの方法は推奨されてきた感すらある。どの調達・購買の参考書にだって「まとめ買いによるコスト削減」が紹介されている。さきほどの例でいえば、ほんとうは10個しか必要なかったとしても、あえて100個買うことによって、安価な価格を引き出すのだ。ただ、その場合も、残り90個は在庫になってしまう。

では、「まとめ買い」によって、何%以上のコスト削減を達成できれば在庫化しても良いのだろうか。また、「在庫は悪い」と叫ばれているけれど、具体的にはいくらくらいのコストがかかると計算すべきものだろうか。

前回の問題意識は上記のようなものだった。

そこで、今回お伝えしたいのは「資本コスト」の考え方だ。「在庫の話をしているのに、なんで『資本コスト』なんて、わけのわからないものを紹介するの?」と思った読者のみなさま。ちょっと聞いてほしい。実は、在庫の問題とは、この「資本コスト」と関係している。

まずは、この表を見てほしい。

<クリックすると図を大きくすることができます>

なんのことやら?

ここでみなさんの会社の財務諸表(非上場企業は「計算書類」と呼ぶ)の、損益計算書と貸借対照表とキャッシュフロー計算書(または株主資本等変動計算書)を用意してほしい。

・在庫が悪い定量的測定

たとえば、こんな会社があったとしよう。極端なほどわかりやすい例を書いてみる。

・銀行からの借入:1億円
・銀行への支払利息:500万円
・株主資本:1億円
・株主への配当:500万円

この企業の場合、1億円を借りると、5%ずつの支払利息や配当をしていることがわかる。つまり、これが会社がお金を集めるときのコスト率にほかならない。要するに、こういうことだ。会社は1億円を借りたり、株主から集める以上は、そのお金を翌年には増やして、利息・配当をお返ししなければいけない。1億円だったら500万円、100万円だったら5万円、元手を使って利益を生む必要がある。

ここで在庫を考えてほしい。在庫は、何も生まない。在庫はそこにあるだけに見えて、会社のお金をムダづかいしている。だって、在庫が何の利益を生まなくても、会社は5%のコストを支払う必要があるから。

・銀行からの借入:長期負債は貸借対照表から拾う
・銀行への支払利息:損益計算書の営業外費用から拾う
・株主資本:貸借対照表から拾う
・株主への配当:キャッシュフロー計算書(または株主資本等変動計算書)から拾う

上記によって、各種の数字を拾うことができる。

さて、さきほどはあまりにも簡単な数字だった。少し変化させよう。

・銀行からの借入:1億円
・銀行への支払利息:500万円
・株主資本:2億円
・株主への配当:2000万円

この場合はどうだろうか。まず、全体を計算しようとすると、銀行からの借入と株主への配当を、それぞれ加重平均する必要があるから、

(500万円÷1億円)×{1億円÷(1億円+2億円)}+(2000万円÷2億円)×{2億円÷(1億円+2億円)}=8.33%

こうなる。資本コストが8.33%ということだから、もし100万円ぶんの在庫をムダに放置していたとすれば、100万円×8.33%=8万3300円が「在庫を持つことによってかかる(失った)コスト」だ。

ここで前述の式に一歩近づいた。

もっと正確にやろうと思えば、もう一つ工夫する必要がある。というのも、「銀行への支払利息」は通常コストとして計上されるから、そのぶん税金が安くなる。要するに、利益が下がるから、国や地方自治体に納める税額が減るわけだ。ということは、「在庫を持つことによってかかる(失った)コスト」をより正確に計算しようと思えば、次の式になる。

(500万円÷1億円)×{1億円÷(1億円+2億円)}×(1-税率)+(2000万円÷2億円)×{2億円÷(1億円+2億円)}

日本は法人税等で約40%だから(法人税ではなく、法人税「等」)、40%をあてはめてみよう。

(500万円÷1億円)×{1億円÷(1億円+2億円)}×(1-40%)+(2000万円÷2億円)×{2億円÷(1億円+2億円)}=7.67%

ここで、最初に提示した式となる。

<クリックすると図を大きくすることができます>

上記の例では、資本コストは7.67%だから、もし100万円ぶんの在庫をムダに放置していたとすれば、100万円×7.67%=7万6700円が「在庫を持つことによってかかる(失った)コスト」となる。

いかがだろうか。みなさまの予想よりも、はるかに在庫のコストは高いだろうか。もちろん、この7.67%は、みなさまの企業ごとの数字に変更する必要がある。ただし、この7.67%という数字は、さほどヘンではない。

ここまでくると、みなさんの調達・購買部門でムダにしている在庫の額を計算できるようになるだろう。

・さらに在庫が悪いことを把握するために

え、もっと深くやりたい?

という読者むけなので、あとはご興味のある人のみ。もっと正確にやるんであれば、自社が銀行に「お金をあずけたときに銀行からもらえる利子」を計算することだ。いまは超低金利時代とはいえ、0(ゼロ)ではない。

なぜ、利子が関係するかって?

だって、在庫を持つどころか、そのお金を銀行に預けていたら、お金が増えるからだ。前述の例を使い、銀行利率を1%と仮定してみると……。

・資本コスト:7.67%
・銀行利率:1%

これを合計した、8.67%(=7.67%+1%)が、さらに真の在庫コストとなる。ただ、銀行利率は毎年変化するだろうし、どこまでを正確に計算したいかは企業の考えにもよるだろう。

ただ、在庫とは、そこにとどまるから悪ではなく、見えないコストを浪費するから悪なのだ、と認識はしておいたほうが良い。在庫が悪い、とはここまできてやっと理解できるのだ。

<つづく>

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