新入社員の失敗
ある方から聞いた話です。ちょっと感動してしまったので、みなさんともシェアをしたいと思います。これから、一人称で書きますが、伝聞ゆえに、その方の言葉としてお読みいただければ幸いです。
今から16年程前、12月も半ば過ぎたころの話です。今にも雪が降り出しそうな空で、とても寒い日でした。
そんな中、社内で緊急会議が開催されました。
新入社員が選んだサプライヤーが品質問題を抱え、大量の不良品を保有することになってしまったのです。抜き取り検査のうち5%に機能不具合が出ているのに、サプライヤーは「たまたま検査したものが悪いか、検査そのものがおかしい」といって聞きません。
いまではサプライヤマネジメント、という言葉がありますが、要するに、タチの悪いサプライヤを選んでしまったのですね。
朝から夕方。夕方から夜になっても会議は続きました。場は終始、重苦しい雰囲気に包まれていたことを思い出します。
ひとりが、新入社員に対する不満を口にしました。
「こいつが全部悪いんじゃないのか?」
冷やかな視線が新入社員に集まりました。
「そうだ、こいつが悪いんだろう」
「彼が責任をとればいいじゃないか」
新入社員に対する不満の声は大きくなり始めました。
新入社員はうつむき、小さく震えていました。
そこで突然、一人の社員が声を挙げました。
「待ってくれ!」
新入社員の上司にあたる佐藤さん(仮名)でした。
「責任といっても、こいつがとれるはずがない。この責任はすべて私がとる。
私が不良品の回収にまわる。だから、もう犯人探しはやめてほしい」
場は静まりかえりました。皆、どうしていいかわからなかったのです。
数秒が過ぎたとき、それまで沈黙していた常務が口を開きました。
「きみさ、不良品の回収をするって、一人でどうやるの?」
佐藤さんは「これから現場にいって、ほんとうに不良品ばかりか一つひとつをチェックして……」と語ったものの、つづきが出てきません。
常務がみんなを見ながら、話しました。「みんな、何らかの結果をもたらしたミスはあったかもしれない。そして、彼はすべての責任をとるといっている。ただ、失敗することこそ、新入社員の特権じゃないか。新入社員に失敗を許さなかったら、私たちの組織はどうやって人を創り上げることができるだろうか」
私は、聞きながら、ふと我に返りました。自分が新入社員であったころ、いかに上司の世話になったか。いかに自分が失敗を繰り返してきたか。新入社員に責任を押し付けようとしていた自分を恥ずかしく思いました。皆、同じ心境であったのでしょう。
ひとり、またひとりと協力を申し出る者が現れました。会議で犯人を特定するのではなく、手分けしてとにかく事実をあきらかにしよう、そのために行動しよう、と場が一つになった瞬間だったのです。
「しかたないな、俺も手伝ってやるよ」
「まあ、手分けして全数検査して、そのあとにみんなでサプライヤに乗り込むしかないよ」
「早く、事実を明らかにして、前に進もう」
16年経った今でも、この光景を思い出すと胸が熱くなります。正直、この検査結果がどうなったのか。それは、もう覚えてはいません。ただ、一致団結した「瞬間」を覚えています。それだけです。
(以降、坂口のコメント)
他者へのほんのちょっとの優しさ、そして事実をあきらかにしようとする意志。必要なのは、これだけなのかもしれませんね。「新入社員に失敗を許さなかったら、私たちの組織はどうやって人を創り上げることができるだろう」とは、重い言葉ですね。