今どきのサプライヤー訪問を考える 6

今回から、具体的なサプライヤー/工場訪問の実務について解説を加えます。まず、全体的なバイヤーが工場なりサプライヤーなりを訪問する行為の位置づけの変化を解説します。

「どうぞ、工場にいらしてください」

私が調達・購買部門で働き始めた頃、担当するサプライヤーの営業パーソンからは異口同音に、工場訪問の要請がありました。自分が担当する購入品の理解を進めるためにも、調達・購買部門でもサプライヤー訪問への高い意欲がありました。

しかし、最近は少し状況の変化を感じざるをえません。それは市場ニーズにおけるさらなる公開拡大のニーズと、サプライヤー側の情報管理/機密保持管理が関係しています。

まず、市場における公開拡大ニーズです。

例えば、昨年来多くの企業で発生している検査データの偽装や隠匿の問題。発表されたのは、遅きに失した感は否めません。しかし、内部通報がきっかけかもしれませんが、企業内の自浄機能が働いた結果です。でも、シンプルにこういった問題意識は生まれませんか。問題を起こしていない企業は本当に大丈夫なのか。検査データの偽装や、問題あるデータを隠匿していないかどうか。

これまでのサプライヤーマネジメントは、基本的に性善説にもとづいた管理です。自主検査であっても、まさかねつ造データをバイヤー企業に報告するはずがない、といった考え方です。昨今のさまざまな企業の不祥事は、こういった前提条件に疑義をもたざるをえなくなっています。

またバイヤー企業に課せられた持続可能な調達/CSRといった観点でのサプライヤー確認が求められています。従業員管理上も法令違反がないかを確認するには、サプライヤーのありのままの姿を包み隠さずにチェックしなければなりません。サプライヤーの隠匿も困るし、バイヤーの見極める力量も試されます。しかし、年に数回サプライヤーを訪問して、そういった問題を確認するのは至難の業です。

したがって、市場における公開拡大ニーズの受け皿は、バイヤー企業によるサプライヤーへの事前通告なしの訪問になります。突然、バイヤーや監査担当者がサプライヤーを訪問してあれこれチェックします。突然なので、サプライヤーの担当者が不在にしている可能性もありますよね。もし不在だったら、帰社するまで待機しなければなりません。それほどの覚悟でサプライヤー訪問をする必要性が生まれつつあるのです。

こういった取り組みを仕組みとして確立し、該当するサプライヤーと契約内容として合意しているケースもあります。JISQ9100(2016)「品質マネジメントシステム-航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」では、つぎのような規定があります。

8.4.3 外部提供者に対する情報

中略

l) 組織,その顧客及び監督官庁が,サプライチェーンのあらゆるレベルにおいて,施設の該当区域への立入り及び該当する文書化した情報の閲覧を行う権利

航空機の場合、サプライヤーが生産品の検査結果をねつ造したり、基準に達していなかった検査結果を隠匿したりすると、航空機の乗客や乗務員や、墜落といった事態になれば、地上の人々の命も危ぶまれます。そういった事態を回避するために、バイヤー企業に、工場に立ち入ったり、書類を閲覧したりといった行為を「権利」として認めているのです。またサプライヤー(外部提供者)に、バイヤー企業のそういった権利の受け入れを求めています。

これは航空宇宙産業のセクター規格ですから、業界が異なれば違った現実があるでしょう。しかし、性善説が通用しなくなっている現在、どのようなサプライヤーの実態を掌握するのかは、あらゆる業界の課題です。その一つの答えが、アポなし訪問、監査の事前合意なのです。

続いて、サプライヤー側の情報管理/機密保持管理ニーズです。

前段の工場をより明らかにするバイヤー企業のニーズとは逆で、サプライヤーの生産技術やプロセスに製品競争力の源泉がある場合や、新製品の開発にまつわる製品を生産している場合、工場を見せない/立ち入らせないサプライヤーが増加しています。これは顧客と締結している機密保持契約の内容も大きく影響しています。皆さんも、開拓したサプライヤー見積依頼を行う際、依頼前に機密保持契約の締結を行っていませんか。既存取引のあるサプライヤーと、新たに機密保持契約の締結ケースもあるでしょう。契約内容には、契約当事者である発注企業と受注企業間のみでの情報共有を規定しているはずです。多くのサプライヤーは、顧客は複数社にわたるでしょうから、工場を来訪する契約外の第三者に、たとえ仕掛品であっても視認可能な状態にはできないのです。

せっかく購入したいサプライヤーがいても、工場が見られないと残念ですね。依頼内容が実現できるかどうかを確認できない実務的な影響も懸念されます。しかし、この問題は「お互いさま」の精神で乗り切るしかありません。逆に、自社の新製品の試作内容を、第三者に情報開示されると困りますよね。したがって、自社の発注内容にまつわる部分に限定して見学をお願いするとか、訪問してチャック可能なタイミングをさぐるために、広くスケジュールを設定するといった工夫がバイヤー企業側にも必要です。契約順守に必要な対応は、サプライヤーだけではなくバイヤー企業にも発生します。また、しっかりした管理を実践している企業であれば、なんとか工夫し調整して、バイヤー企業のニーズに応える対応をしてくれます。

これまでに述べたような変化によって、バイヤー企業=顧客だから工場を訪問したら現場をみるのが当たり前だ、との考えには注意が必要です。

2.工場訪問準備
(1)サプライヤーへどう依頼するか?

サプライヤー訪問/工場訪問をめぐる環境が変化していても、依頼しなければサプライヤーがどのような反応を見せるかわかりません。したがって、訪問目的を明確にした上で、社内の了解をとって、訪問したい旨をサプライヤーへ連絡します。

また、例えば新たに担当になったサプライヤーへあいさつしたとき「ぜひ工場にもいらしてください」って言われる場合もありますよね。私は絶好の機会としてとらえ、必ず実現へ向けたアクションへとつなげます。その場合に忘れてならないのは、目的の明確化です。工場見学/確認/監査に加えて、もう1つなにかテーマを設定します。シンプルに、良好な納入状況に敬意を表するでも良いし、品質レベルの長期低落傾向に対して、データに裏打ちされた根拠と共に、実態を認識しているかどうか。認識していれば、どう改善しているか。認識していなければ、どうしましょうか、と相談します。

なお、メールでもFAXでも使える工場見学依頼の文面サンプルは以下の通りです。まず、口頭で意向を伝えた後に送る場合を想定しています。

***工場見学申し入れ/依頼文***

件名:工場訪問のお願い

拝啓 毎度お世話様です。
先日お伝えした御社工場訪問の件、下記の通り実施詳細のご調整をお願いします。 ご多忙のところ恐縮ではございますが、どうぞ、よろしくお願いします。敬具

1.訪問日:2018年12月3日の週のいずれか1日
13:00に御社××工場到着予定
2.訪問者:未来調達研究所株式会社 牧野、石塚
3.訪問目的
(1)購入品の御社工場内サプライチェーン(生産プロセス)確認
(2)御社の2018年度納入状況の途中経過報告(10分程度)
(3)2019年の見通しについて(10分程度)
4.連絡事項
(1)工場見学は、可能であれば御社の原材料受け入れから、製品加工/組み立てを経て品質確認、梱包、出荷までのフロー順で実現できますと幸甚です。
(2)上記3(2)(3)では、可能であれば、PowerPointをつかって短時間でご説明申し上げる準備をいたします。プロジェクターがない場合は、文書を持参いたしますので、プロジェクターの有無のご連絡をお願いします。
(3)工場へ立ち入る際の服装他、注意事項があればあらかじめお知らせお願いします。

それでは、お手数おかけしますが、よろしくお願いします。

***依頼文終わり***

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