今どきのサプライヤー訪問を考える 4

前回に引き続き、サプライヤー訪問です。今回は、バイヤーのサプライヤー訪問の意義としては非常に重要なポイントです。難しい内容はありません。それこそ、明日から実践できる内容です。

(2)サプライヤーからバイヤーとして評価される

これまで、バイヤーがサプライヤーを訪問する意義について述べてきました。訪問意義をまとめると、サプライヤーの現状掌握です。バイヤー企業と、サプライヤーの関係の状態、ステージにもとづいて、細かい目的は異なるにしても、サプライヤーはどのような状態にあるのか。バイヤー企業の要求内容を実現できるリソース(品質管理、原価管理、生産/納期管理と、そのすべてを網羅した顧客対応)がそろっているか。そして、個々のリソースに能力があるかを実際に確認します。

ほぼすべての調達・購買文献も「サプライヤーの状態を確認する」視点で書かれています。しかし現在、サプライヤーが顧客を層別に管理しています。代表的な取り組み手法としては、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)(customer relationship management)が挙げられます。その定義は、以下の通りです。

顧客に関する情報を一括して管理し、それを解析することによって個別的なアプローチを行い、長期的視点から良好な関係を築くことをめざす経営手法。

年齢・性別等の基本属性や購買履歴、購買後のクレーム等、消費行動に関する情報を顧客ごとに管理、解析し、反復購入の可能性、他社への乗り換えの可能性、顧客の将来価値などの予測を立て、各顧客の特徴に合わせた商品や販売方法を提案する。商品の販売による利幅が減少する現在の市場環境においては、消費者を自社の顧客として囲い込み、顧客の自社に対する生涯価値を高めることが収益の上昇と競争力の強化において重要となることからCRMの必要性は高まっている。

上記の説明文は、BtoCのビジネスにおける顧客のアプローチを例に語っています。こういった取り組みの裏返しが、まさにサプライヤーマネジメントの根幹です。バイヤー企業が、サプライヤーを管理するのであれば、サプライヤーが顧客であるバイヤー企業を

・反復購入の可能性
・他社への乗り換えの可能性
・顧客の将来価値

といった観点で予測を立て、各顧客の特徴に合わせた商品や販売方法を提案しても、なんら不思議はありませんよね。しかし、こういったサプライヤーが行うバイヤー企業の評価は、バイヤーが訪問しなくてもサプライヤーが勝手に行います。こういった評価に「担当するバイヤーがどんな人なのか?」が加わるのです。サプライヤーが「担当バイヤーはどんな人か?」と判断する貴重な機会が、バイヤーの訪問時なのです。

バイヤーがサプライヤーを訪問する際に、残さなければならない印象は、適度な厄介さであり、一筋縄ではいかない「手ごわさ」です。通り一遍の説明では納得してもらえず、他の顧客よりも適度に面倒くさいと思ってもらうのがベストです。ここで申し上げる「適度」とは、過度に理不尽な物言いを行って、サプライヤーの社内を意義なく混乱させないとの意味です。

皆さんはサプライヤーを訪問するときにサプライヤーを「見てやろう」「チェックしてやろう」と考えているはずですね。それは間違いではありませんし、重要な訪問目的です。しかし、見てやろう/チェックしたやろうと同じくらい、自社の戦略やバイヤーとしての考え方を伝える意志を持っているでしょうか。サプライヤーの営業パーソンが、バイヤーの話を100%漏れずに社内に報告している例は、ほぼ皆無です。したがって、サプライヤーのチェックと同じくらい、バイヤー企業にとってのサプライヤーの価値とか、発注品の背景とか、あるいはバイヤー企業が直面している市場環境です。バイヤー企業の戦略に影響をおよぼす要因は、度合いの差こそあれサプライヤーにも影響をおよぼす要因でもあるのです。

サプライヤーにとって重要な顧客であれば、工場を訪問した際に、上位者であり幹部が訪問のお礼を申し述べるはずです。重要顧客であればあるほどに、丁重な対応を受けるでしょう。そういったサプライヤーの配慮に対して、バイヤーとして具体的な価値ある情報提供ができるかどうか。この点をバイヤーとして実践しておけば、必ずあなた自身のサプライヤーにとっての価値が向上します。サプライヤーの訪問に際しては、訪問先のチェックと同じくらい、相手に何を伝え残せるか、が重要なのです。

もちろん、現場を訪問した際や、品質管理、原価管理、生産管理/納期管理といった観点で、サプライヤーが気づいていないポイントを指摘するのは、かなり尊い行為です。しかし、現場を1~2時間見ただけで指定できるのは、私は安全管理や目標管理、作業指示方法や作業完了の実施方法といった表面的な内容ばかりです。サプライヤーの生産管理や生産技術にかんする指摘を行うには、少なくとも数日間を費やしてサプライヤーに滞在しなければ無理です。なぜなら、サプライヤーを訪問したときにバイヤーとして見る管理方法や作業方法には、そうしている理由や背景が必ず存在しているためです。専門的な知見があれば、一回現場を見ればわかる可能性もあります。しかし、バイヤーが担当するサプライヤーの業種や品目は複数におよびます。したがって、管理方法や作業方法に本質的に違和感を覚えたとき、いきなり「おかしい、改善すべきだ」といった指摘はできないはずなのです。まず「なぜ、このような作業/管理をしているのですか?」から入らなければ、サプライヤーの現場における本質的な理解などできないのです。

だからこそ、どんなビジネスパーソンでも共通したテーマである「戦略」や「事業環境認識」と行った部分でサプライヤーに語り、その語りを根拠にして、さまざまな要求を実践する必要があるのです。

具体的な「戦略」や「事業環境」であれば、例えば年度の戦略策定といった場面で社内に何らかの資料があるはずです。またバイヤー企業のおこなっているサプライヤー評価を伝えてもかまいません。私が鉄板で活用する伝え方は、

①最新の市場認識はこうである

②だから、私たちはこんな方針/戦略/計画をもっている

③私たちの方針/戦略/計画の実現に、御社(訪問しているサプライヤー)に、具体的な期待をもっている。

④ただ、最新の御社の評価を見ると、この部分に問題がある。


パターン1:なんらかの改善の取り組みを共同してゆきませんか?
パターン2:だから御社への依頼/要求があるのです

会計年度ごとに戦略を立てて、サプライヤーを定期的に評価していれば、さほど時間を費やさずとも資料が準備できるはずです。もちろん、機密事項はモザイクで消去します。皆さんがもし、戦略立案を「やらされ仕事」と思っているなら、こういった活用法があれば、作成にも意欲が増すと思いませんか?

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