バイヤーのトラブルシューティング 1

バイヤーであれば誰もが遭遇するトラブル。サプライヤーからの納入を円滑に実現するのが、調達・購買部門、ひいてはバイヤーの最重要な責任です。そういった事態が打ち上げられてしまうと、社内の業務は混乱し、収束できなければ最終的に顧客と締結した契約は守れない事態へと発展します。

当然ながら、トラブルはその防止が、最も重要で価値ある取り組みです。そして、何らかのトラブルが発生したとしても、バイヤー企業の社内で対応して、顧客に迷惑をかけずに処理しなければなりません。いったん発生してしまったトラブルは、その解消だけではなく、発生原因まで踏み込んで、再発防止策の確立まで完了させなければなりません。通常業務を進めながら、トラブルの対応を行ってなおかつ再発防止まで行うのは、業務負荷的にも非常に過大になる場合が多くなります。時に、トラブルシューティングのモチベーションが生まれない事態もあるでしょう。しかし、特に納期トラブルでモチベーションの問題で対応が後手に回ってしまうと、より事態を悪化させる可能性もあります。したがって、どんな仕事にも共通ですが先手を意識して、事態の早期沈静化を目指します。

私はトラブルシューティングを積極的に行うバイヤーです。それには確固たる根拠があります。トラブルシューティングを通じて得られたサプライヤーの情報は、日常的なサプライヤーマネジメントにほぼ全て活用可能な貴重な情報です。普段、なかなかサプライヤーの本当の姿が分からずに対応に苦慮し、適切な情報入手ができずに忸怩たる思いを続けているなら、トラブル発生の場面をさまざまな情報を入手に格好のチャンスと捉えて対応してはいかがでしょうか。そのように考えるべき理由を、4回連続でお伝えします。

まず、設定された期日に納入されない、D(納期)トラブルです。特に最近では、サプライヤーの能力に対して、顧客からの需要が多くなる傾向が顕在化しています。こういった相対的に需要過多な局面では、納期遅れが発生する確率も高くなります。納期遅れなんて日常的に発生していると、解消するための調整に忙殺されていれば、本来のバイヤーが行うべき仕事に支障をきたします。だからといって、やらなければ顧客との納期が守れないといったより大きな事態に発展してしまいます。多くのバイヤーにとって非常に悩ましい状態です。

実は納期遅れに代表されるような納期トラブルは、事前の納期設定のプロセスのどこかに必ずその原因が存在します。納期遅れには必ず理由があるのです。ただなんとなく漫然と遅れてしまったなんて事態があったとしても、再発防止が最も行いやすいトラブルなのです。また納期トラブルを解消すると、その過程でバイヤーには何にも代えがたい情報獲得が実現します。それでは、どのように納期トラブルを解消するのでしょうか。

・実態の掌握
納期トラブルが発生した場合、バイヤーがその事実をつかむ瞬間は多岐にわたる状況が想定できます。最悪のケースは、すでに納期が到来しているにもかかわらず納入が行われずに理由を確認したところ遅延が発生していた場合です。このケースでは、理由はどうあれ一刻も早く納入を実現しなければなりません。だからといって、やみくもに「納期の繰り上げ」を叫ぶだけでは、納期の繰り上げは実現しないでしょう。
まずは、実体の掌握を冷静に行いましょう。想定される納期遅れの影響にもよりますが、事実が明らかになった段階でサプライヤー訪問の実施を提案します。すぐには訪問できない場合、画面共有可能なテレビ会議を行って、納期遅延をサプライヤーが管理する工程時間の最小単位ベースで理解します。

工程時間の最小単位とは、サプライヤーが見積書に記載したリードタイムによって採用する時間帯を決定します。例えば、リードタイムが日単位で記載されている場合、基本的に日数単位で実際のリードタイムを掌握します。

そして実態掌握においては、サプライヤーで行われる詳細工程への分割作業が必要です。いわゆる「工程表」を作成するとき、工程を一本の直線で表現するのではなく、できるだけ複数の線で表現します。例えば、部品1つをサプライヤーが制作する場合、見積書に30日とリードタイムが表現されているケースを考えます。

その30日を構成する各工程に分類します。部品に必要な材料調達リードタイム。加工準備リードタイム。加工リードタイム。検査を実施するのであれば、検査リードタイム。梱包リードタイム。輸送リードタイムといった具合です。これに加えて、バイヤー企業の発注が、サプライヤー社内で、どの程度日数で具体的な作業に展開するのかも併せて確認します。

・納期トラブルの真の原因が分かる
こういった形で、日数で表現されていたリードタイムを、各工程にバラバラにすると、多くの納期トラブルでその原因が判明します。リードタイム30日と表現されていたにもかかわらず、実際に詳細工程を確認して日数の積み上げを行うと、35日必要だった事実が判明するのです。こういった場合は、リードタイムの積算ミスとも言えるし、サプライヤー側の納期意識の甘さが原因ともいえます。

実例としてはさほど多くありませんが、納期が表現される場合にカレンダー日数の表現と稼働日表現といった違いがトラブルを生む要因になっているケースもあります。またさまざまな工程を含む場合、特にサプライヤー内部で処理できずに、バイヤー企業から見ればさらに外部のサプライヤーに対応を依頼する場合、横持ちの輸送日数が、結果的に納期遅延の原因になっているケースもあります。特に昨今では、物流業者の貨物引受要件が厳しくなっています。例えば、従来であれば夜遅くても荷物を引き受けて、引き受けた日に発送してくれたのに、ある時間以降は持ち込んでも翌日扱いになるといったケースが発生しています。

本来であればそういった物流条件の変化を踏まえて納期設定を行うべきです。しかしそういった取り組みが行われずに従来ベースと同じ納期を回答していると、納期遅延が発生ししまうケースが想定されます。従来であればある程度日数的な余裕を持って対応していても、何らかのトラブルが発生してその余裕を食いつぶしてしまい納期遅延が顕在化する場合もあるでしょう。

・まずは実態掌握
納期遅延はバイヤーが直面するトラブルの中でも頻発しがちな問題であり、発生してしまうと待ったなしの対応が必要です。ついつい感情的にサプライヤーに対処してしまう場合も多いはずです。しかし、その解消に感情的な、特に行き過ぎた言葉は必要ありません。バイヤーの不満を解消する前に、納期遅延を解消します。

実態を掌握する過程で、分割された工程に対して、個々の内容も確認しましょう。それぞれの工程は人なのか、機械なのか、どんなリソースを使って詳細工程が完成されるのかを掌握します。実は、納期トラブルの解消にかこつけたこういった確認が、後々の調達・購買業務に大きなメリットをおよぼすのです。その点は次回、詳細をお知らせします。

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