荒廃購買と超脱調達
「そんなこともできないのかよ!!」
バカな人を見るのは、正直気持ちの良いものじゃない。
いつものことだった。
そのバイヤーは朝、会社に来るのがイヤになっていた。
なぜか。
隣のバイヤーがイヤだったからだ。隣のバイヤーに耐えられなくなっていたからだ。
彼はサプライヤーに言う。「ちゃんと見積りくらい作成しろよ」
彼はサプライヤーに言う。「ちゃんと約束を守れよ」
彼はサプライヤーに言う。「ちゃんと言ったことをやってくれよ」
その正論になぜ、そのバイヤーは隣で聞いていてイヤになったのか。
それは、彼が、自分で言っていることを実行していそうに思えなかったからだ。それをまず言うべきは自分自身ではないか、と思ったからだ。
そのバイヤーは隣のバイヤーに申し入れた。
「サプライヤーに対して厳しいのは良いのですが、もうちょっと優しくしてやるべきじゃあないでしょうか?」
隣のバイヤーは言う。「あんなゴミみたいな奴らなんて、使えばいいんだっ」
もうそのバイヤーは言いたいことも言わないでおこうと思った。そのバイヤーに何を言ってもムダだからだ。
そして、その間にも隣の電話での会話は続いている。
「なんでお前、そんなこともできないんだよ!早くしろよ!なんでそんなこともできないんだよ!」と。
隣で聞いていたそのバイヤーは「それはお前のことだろう」と思わずにはおられなかった。
・・・・
そのバイヤーは私だった。
これまで、何人くらいのバイヤーを見てきただろう。
そして、その何人ほどが自分のことを棚にあげて、サプライヤーに対する不平不満ばかりを言っているだろう。
私は思う。「サプライヤーに至らないところはあるかもしれない。だけど、最も至らないのはバイヤーの方ではないか」と。
よく、バイヤーは言う。「あのサプライヤーの営業マンって、どうしようもないよな」と。でも、バイヤーのほうこそ「どうしようもない」奴が多いのではないか、と。
バイヤーは「売り買い」の構造の中で、買うという立場にいるせいだろうか。どうも人間的に「使えない奴」が多いように思う。
それは、単純なことだ。単に、人間性が発達していない奴ばかりだ、という意味だ(この方がキツいか)。
バイヤー業を卒業して、定年を迎える人がいる。その人たちから、「バイヤー業務の経験を活かして、新たな仕事を始めようと思うが、なかなか採用してくれない」という声を良く聞く。
しかし、私などから言わせれば、それは「あなたの魅力がないからではないか」と言いたくなってしまう(言ってしまった)。
バイヤーとは、とかく自分自身の実力を過剰評価してしまう職業らしい。
・・・・
私はよく、この話をする。
「トップのヘッドハンターがバイヤーの年収評価をすると、平均は400万円ほどだ」と。
だから、ほとんどのバイヤーは年収に応じた仕事をしていないことになる。
もちろん、こんな反論もあるだろう。「俺は800万円もらっている」と。しかし、それは市場での現時点での評価であるか、あるいは所属企業の加齢に応じた給与でしかないのである。
それをファンダメンタル的に評価したら、400万円程度の価値しかないのだ(それでも「俺だけは違う」と思うのであれば、挑戦してみれば良い)。
誰が、サプライヤーとお茶を飲んで雑談をし、しょうもない仕事に甘んじている職業人に400万円以上の給与を出すだろうか。誰が、机を叩いているだけのバイヤーに対して金を払うだろうか。
ある外資系のマネージャーは「購買部員の8割は不要な人物だと考えている」と私に教えてくれたが、バイヤーはこの意見に正面切って異論を申し入れることができるだろうか。
つまり、冷静な分析では、サプライヤーが悪いのではなく、バイヤーのレベルが低すぎるのが問題なのだ。
・・・・
購買の世界は荒廃している。
それを荒廃購買といわずしてなんだろうか。
だから、若者よ。隣のバイヤーを信じるな。先輩というだけで威張っているバイヤーを信じるな。彼らには何の市場価値も無い。
そして、老年者よ。自分の立場を信じるな。その立場は、年齢という全く意味のない事実だけで彩られた仮想物なのだ。
バイヤーが一度全ての仮面と立場を脱ぎ捨てて、実力だけで勝負したとき。そのとき、大きなパラダイムシフトが起こる。
加齢分の知識などなんら役に立たない。加齢分の人脈など、単にその会社に長くいることを証明しているだけだ。
超脱せよ。
これまでの調達からの「超脱」。
これは、単なる言葉遊びではない。
もっとバイヤーは、自分の市場評価(例えば、前述のヘッドハンターの評価を見よ)に敏感になるべきだ。
年収400万円が平均だと言われて納得するな。
年収2000万円の地平線を目指せ。
それがどんなにドリーミィでも。
それがどんなにミステリィでも。
ハスキィに。
パーソナリィに。
そして、颯爽とウィンディーに。
「バイヤーは、年収600万円に甘んじるな!」