調達関係者は夢を持たないほうが成功する(坂口孝則)
以前、アラビアのロレンスは、こういいました。
「目を閉じて夢をみる者はしかたがない。しかし、やっかいなのは、目を開けたまま夢を見るものだ」と。
この発言をはじめてきいたとき、かなり驚きました。なぜなら、アラビアのロレンスですよ。民族の独立に大きな寄与をしたロレンスです。もし彼が「大きな夢を見なさい!」と語りかけていたとしたらどうでしょう? きっと、そのまま納得するはずです。「やっぱり、大きなことを成し遂げるには、夢を見なきゃなあ」って。
しかし、発言は真逆です。
「目を閉じて夢をみる者はしかたがない。しかし、やっかいなのは、目を開けたまま夢を見るものだ」
どう考えればよいのでしょうか。はい、まさに真意でいうと、「目を閉じて見る夢にたいして、目を開けながら見る夢は、多くのひとを惑わせる」と。目の前の仕事に必死に取り組めばいいのに、夢なんてものを持ってしまうと、目の前に仕事に全力投球できなくなる、と。だから、夢なんてものは持たないほうが良いんだ、と。
繰り返し、驚くのは、大成功者であり歴史的偉業をなしとげたロレンスの言葉だからです。私はロレンスのこの言葉に、賛成7割、反対3割の感情をいだきます。
ロレンスの言葉について。おっしゃるとおり、夢なんてものは無いよりも有ったほうが良いくらいで、重要なのは現在の仕事を必死にこなすかどうかです。その意味では、(夢なんてものが弊害になるかどうかはわからないまでも)「ここではないどこか」を夢見るのではなく、すでにまわりにある問題を解決するほうが先でしょう。
そして私は、「反対3割」とも書きました。正確には反対ではありません。私は、このロレンスの言葉を思い出すたびに、妙な、反語的な意味を想像してしまいます。つまり、「目を閉じて夢をみる者はしかたがない。しかし、やっかいなのは、目を開けたまま夢を見るものだ」と聞いて、夢をあきらめてしまうひとは、そもそも夢をもたないほうが良いのではないか--。という反語です。誰が何をいっても、夢を持ち続ける奴は持ち続けるでしょうし、偉人がこういっていたと知って夢を放棄する奴は、いずれ夢を放棄していたでしょう。
かつて民俗学の祖である柳田國男や宮沢常一は、子供の個性は抑えつけるべきだ、といいました。抑えつけられて無くなってしまうような個性は、そもそも役立たないというのですね。私もこれには賛同します。
すべての優れた個は、実は抑制された現実を起点とするのではないでしょうか。その意味で、みじめで抑圧された職場であっても、それはむしろ歓迎すべきことかもしれません。