「機内のお客様に調達の方いらっしゃいますか」問題を考える(坂口孝則)

「機内のお客様に、お医者様いらっしゃいますか」なるアナウンスなら想像できます。機内に急病の方がいらっしゃったら、最適な処置を教えてくれそうだからです。しかし、これが調達だったらどうでしょうか? 「機内のお客様に、調達の方いらっしゃいますか」あるいは「機内のお客様に、バイヤーの方いらっしゃいますか」というのは、想像がつきません。

あえていうと、交渉役でしょうか。「暴れて大変なお客様がいらっしゃいます」とか「テロリストが交渉を要求しています」など。呼ばれても絶対に行きませんけれど、その他がどうしても思いつかないのです。いや、こういう仮定自体を馬鹿げていると考えるひともいるでしょう。しかし、端的にいって「こう役立つ」といえない職業だから、社内的な地位が低いと私は思うのです。

たとえば、「機内のお客様に、プログラマーいらっしゃいますか」というのは、もしかするとありそうです。機内の管制プログラムが何者かによってジャックされたので、緊急に助けてほしい、とか。「C言語の方に限ります」とかいわれたら笑ってしまうかもしれません。笑うタイミングではありませんが。

話を調達・購買に戻してみましょう。交渉以外に、「自分は調達・購買の実務経験を活かし、こういう観点で社会に貢献できる」と語るに足る能力をみなさんはお持ちでしょうか。私は、調達・購買の観点から社会の事件を見ると、こう解釈できる、といった活動をしています。というか、それくらいしかできない、と思っています。

「機内のお客様に調達の方いらっしゃいますか」問題の続きです。たとえば、私は、報道があまりにひどいと感じた件がありました。トヨタ自動車系列の愛知製鋼・知多工場で爆発事故です。トヨタは生産ラインを止めましたが、あれは批判に当たらないと感じました。私はトヨタグループ全体で復旧が迅速になされているとしか思えなかったのです。

そこで、そのようにメールマガジンでも書きましたが、日経BP社から、原稿の依頼をいただき、文章にしました。
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/335160/020900003/
全国の調達・購買担当者を勇気づけようと思って書きました。

予想はしていましたが、週間のアクセスでもダントツの一位となりました。できるだけ公平な観点を心がけたつもりですが、もちろん調達・購買側よりになってしまったかもしれません。それでも、私は調達・購買観点から世の中を眺めると、こう思える、といった姿勢を続けていきます。このような仕事は私のほかに数名いたらじゅうぶんでしょう。でも、どうやって会社のみならず、社会に貢献できるかは、みなさんなりに考える必要があります。

それにしても、面白い問題ではないでしょうか。「機内のお客様に調達の方いらっしゃいますか」というアナウンスがもし、将来的にありうるとしたら、私たちはどんな能力を身につけているでしょうか。そして、会社と社会にアピールするときに、どんな特性と卓越性を喧伝すべきでしょうか。

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