史上最悪の調達リスクが生じている(坂口孝則)

東日本大震災の際、「ダイヤモンド構造」なる調達構造が話題になりました。あるいは「樽型構造」と呼んだメディもあります。これは何か。ティア1サプライヤは複数あります。ティア2サプライヤも複数あります。だから調達先の多様化により、リスク分散されているはずでした。しかし、東日本大震災で明らかになったのは、けっきょく、原材料メーカーまでたどっていけば、そのサプライヤはおなじで、そこが被災してしまうと、サプライチェーン寸断してしまう「不都合な真実」でした。

なぜメディアが「ダイヤモンド構造」と呼んだかというと、サプライヤが広がっているように見えても、源流の原材料サプライヤは一社か二社に集約されているからです。だから、その原材料メーカーがすべてを握っていました。それから、各社は東日本大震災を教訓にし、原材料メーカーの分散も進めてきました。

しかし、2019年、その教訓とは裏腹に、史上最高の一社集中リスクが生じようとしています。それは台湾のTSMCです。半導体の製造メーカーと考えればいいでしょう。アップルはチップを同社に委託しています。その莫大な数を一手に担っています。

技術力もそうです。TSMCは、すでにインテルを微細化性能で上回っています。インテルは14nmプロセスを生産していますが、10nmプロセスについては道半ばです。しかし、TSMCは7nmの生産を開始しています。なお、この14nmですら、ほとんど他社が追随できていません。

さらに、先日、アマゾンが自社のサーバーに使用する半導体を、なんと自社設計すると明らかになりました。これは半導体大手との別れを意味します。さらに驚くのは、その生産をTSMCに発注するというのです。それまで、アマゾンむけのチップはインテルが独占していました。それをTSMCに振り向けるというのです。

また、TSMCの投資は、世界中のどの企業も追随できません。開発費と、設備投資は、ダントツに一位の状況です。サムスンは、TSMCと競合するものの、スマホ事業等があるため、サムスンの競合他社が半導体製造をサムスンにはなかなか委託しづらい状況にあります。

そうやって生じたのは、世界中のTSMCへの集中です。いや、集中しすぎといってもいいかもしれません。私たちは、代替案なく、現状を受け入れるしかありません。

その文脈で、このところ報じられたTSMCと中国との関係を読み解くと面白いでしょう。しかし、それにしても、源流の一社集中を避けようとしたはずなのに、現在、市場最悪の一社集中リスクが生じようとしています。私はTSMCが嫌いではなく、むしろ真摯な企業という印象をもっています。

ただ、その好き嫌いとは別に、台湾への一極集中が続いています。私たちは教訓をほとんど理解せず、ふたたび、高リスクの世界へと自らを誘おうとしているのでしょうか。食品業界は別として、それ以外の業界は、半導体と無縁ではありません。自動車は、もはや半導体の塊といわれるほどです。

ですから、私はこの見逃されている半導体の集中リスクをお伝えしました。

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