バイヤに必要な購入価格の考え方
バイヤには、わからないことを知りたい、理解したい欲求が欠かせない。
調達・購買部門で勤務するバイヤは、何よりも安く物やサービスを買うことが社内から求められます。担当する購入品がどの程度の価格なのか、市場価格や相場といったものをあらかじめ理解し、少なくとも世間並みの相場よりも高く買わないのが、最低限の責務です。
ここで1つ、私が追い求めている問題意識をご紹介しましょう。調達・購買部門が行う購買、企業間売買に相場や市場価格が存在するのかどうか。私の購買実務経験やコンサルティング経験を通じて1つ確実に言えるのは、売買が成立する価格帯は非常に広くなります。一般的な消費財と異なり、企業の調達・購買部門で購入するあらゆる製品やサービスの価格は自社とサプライヤとの間だけで決定され、価格情報は外部に流出しないためです。安く買う責任を負っている調達・購買部門では、自分たちが高く買っているのか、安く買っているのかわからないのです。
どんなバイヤでも、自分が決定した購入価格に妥当なのかどうか。確信をもって「妥当性あり」と言い切れません。言い切れる場面は極めて限定されますし、「最安値です!」と断言しても、一抹の不安を覚えながらです。過去に資本関係のない競合メーカー同士の共同購買を行いました。共同購買を開始する前、各社の価格情報をオープンにしました。品目ごと購買価格の高い、安いが明確になりました。相対的に他社より高かった品目の担当者は苦虫をかみ潰し、安かった品目の担当者は安どしていました。そういった取り組みを経てもなお、共同購買プロジェクトに参加した企業のデータのみでの限定的な比較です。業界1位のメーカーは参加していなかったので、本当に安かったのかどうか、わからないままです。
価格レベルに関する感度を養うには長い期間の継続的な取り組みが必要ですし、価格帯を実際の購入金額に反映するには、更に長い期間が必要となるでしょう。価格レベルを理解し、妥当性を確保する取り組みに終わりがありません。どんな企業の調達購買部門であっても「本当に安いかどうかわからない」この事実は、業務の前提条件として理解し、担当者が変わっても、価格帯や相場に関して確認した事実や、感度は必ず引き継がなければなりません。引き継ぎがなされていない場合、担当者が変わるごとにサプライヤから価格を釣り上げられるリスクがあります。
価格に関する相場や市場価格への感度を養うにはどうしたらいいでしょうか。企業購買の場合は売り手と買い手ごとに相場が形成されると考えるべきです。長期にわたって買っている品物でも、企業によっては非常に高く買っている場合もあるし、安く買っている場合もあるでしょう。そういった差が生まれる理由には、バイヤの優劣も当然あります。バイヤの優劣以上に、過去からの経緯や、企業のもつ購買力に左右されます。まったく同じ製品を1個買う場合と、10個、100個買う場合では、価格が違って当たり前です。さまざまな購買実績を見てきた経験で述べれば、長期的に取引を行っているサプライヤほど安価であった傾向はあると思います。
バイヤは誰も本当に安く買えているかどうかわかりません。だからこそ従来よりも安く買えたからこそ感じる喜びもそこそこに、買っている価格に疑いをもちつづけ、妥当性や最安値を追求する姿勢が何より重要なのです。