調達原論3【5回目一ソーシングとパーチェシング】
5「ソーシングとパーチェシング」
コストの汗か、納期の不眠か
人生で二つの道で悩んだら、どちらを選ぶか。
「『大変そうだ』と自分が思う方を選べば、成功する」と私の師は教えてくれました。意図せず、すでに大変な道に迷い込んでしまったバイヤーはどうすれば良いか。それは師の言葉に倣うならば、そのまま必死に目の前の業務にあたれば良い。だからバイヤーはすでに成功の一抹を手にしているのです。
私は何の話をしたいのでしょうか。そう、調達・購買業務の二つの、どちらも「大変そうだ」と思ってしまう、仕事についてです。
商品企画・開発購買を通じて明らかにされた仕様要件に合致するサプライヤーを探し、見積りを依頼し、交渉し、決定する。このプロセスを「ソーシング」と呼びます。また、その後の、製品の発注、納期フォロー、支払いまでのプロセスが「パーチェシング」です。
企業によって、片方だけを重点的に担当する場合と、両方を担当する場合があります。ソーシングだけを担当する場合、どうしても机上の空論に陥りやすく、逆にパーチェシングだけを担当する場合は、現場偏重になり全体が見えなくなりがちです。本来は、パーチェシングを通じて見えてきたサプライヤーの良し悪しを、ソーシングにフィードバックすることで、より良い調達・購買業務につなげていくべきものですが、それはなかなか難しい。でも、やらねばなりません。
ソーシングのバイヤーは、サプライヤーを相手に、ときに勝ち目のない交渉に挑み、1円を削るために汗を流します。パーチェシングのバイヤーは、ラインを1秒でも止めないように、納期管理に奔走し、少しでも納入が遅延すれば眠れない日々を過ごします。
汗か不眠か――。バイヤーの選択肢はその二つです。
ソーシングは設計者と営業マン挟まれ、パーチェシングは生産管理部門と営業マンにもみくちゃにされながら、今日も仕事にあたります。どちらがマシなのか、という問いは立てることができません。それは、きわめて個人のキャリアの問題だからです。
もちろん、ソーシングのほうがコストを左右させるという意味で、上に見られることもあります。
ただ、絶望的な短納期で製品を納入してもらうために真冬の東北に一人で出向き、雪をかき分け到着したサプライヤーの工場で、工場長に泣きながら生産を依頼すること。泊まりの衣類もないままに会社から中国に飛び、言葉も通じない中でそのまま製品を受け取りハンドキャリーで日本に持ち帰り空港からタクシーに飛び乗る。
などという経験は、単なる人生上の自慢に留まらず、そのバイヤーを修羅場という舞台で成長させてくれる促進剤でもあります。
絶望のなかでこそバイヤーは進歩するのですから。