すみません。悪口を書きます

以前、面白い話を聞きました。イタリア弁護士の話です。彼にもちこまれた相談がありました。それは銀行員からで、「1万ユーロを着服してしまった。どうすればいいだろう」というもの。

相談者は、コトの重大性に気づいて、家族会議を開き、そして親類を呼んだようです。しかし、誰も補償しようとしませんでした。だから弁護士のもとにやってきたわけです。弁護士はこういいました。「もう、いっそうのこと、あと10万ユーロを引き出してこい」と。

弁護士は、相談者から10万ユーロを追加でもらったあと、銀行に向かいました。

弁護士は銀行に「おたくの社員は11万ユーロを着服したようですよ」と説明しました。銀行は驚き調査すると、たしかにそうらしい。弁護士は続けました。「普通、弁護士は、訴訟でなんとかしようとする。でも、私は不正義は許せない。だから、依頼人に、なんとかお金を集めろといいました。そして、なんとかお金をかき集めさせて、10万ユーロを用意させました。これがそれです」。

銀行は「11万ユーロのうち、10万ユーロは戻ってくるのですか。ありがとうございました」と弁護士にお礼をいったそうです。なんと、うまい交渉だ、と私は感心しました。

これを「仮想の利益」といいます。あるいは「架空の利益」といってもいい。そう考えると、いちばんすごいのは北朝鮮だと思いませんか。勝手に核開発を続けて、やめるから、援助をよこせという。

この、「仮想の利益」「架空の利益」は交渉者がつねに心しておく原則でしょう。

しかし、逆にいえば、相手の「仮想の利益」「架空の利益」には、敏感になるべきではないでしょうか。私はつねに、交渉相手の投げてくるカードに敏感のつもりです。私は、メディアの出演が多々あるのですが、たまに「批判をやめるから、謝罪しろ」といったコメントをもらいます。意味がわからない。自分がやめるから黙れ、という発想。それは、まさに、「仮想の利益」「架空の利益」ですよね。

交渉の材料としては「仮想の利益」「架空の利益」はすぐれています。ただし、他人に石を投げる意味で、それらを多用するのは、どこか下品な行為のように私は感じます。この文章を読んでいる方々は、ぜひ、時間を費やして他者への批判はやめてほしい。それならば、もっと有益なために時間を使いたいものです。私はできるだけ他人の悪口をいわないようにしているのですが、今回だけはお許しください。(坂口孝則)

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