調達スーパーサイヤ人なる方法
世の中は「情報」と「流通」しか変わらない。これが、私の至った結論です。つまり、「情報革命」と「流通革命」しかありません。人間はほとんど変化しません。それはシェイクスピアやゲーテ、夏目漱石、論語でもなんでも、人間のありようが読み続けられている事実からもわかります。情とかはどんな時代もほとんど同じなのですね。
情報はどうか。携帯電話で日本からメールを送れば、瞬時に地球の裏のブラジルに届く--などといった事実にもう驚きもしません。ただ、90年代前半には考えられませんでした。いまでは、スマホさえあれば、世界中の情報にアクセスでき、サプライヤも製品もいくらでも検索できます。情報を隠すことで儲けていた業者も、いまでは価値を持ちません。
流通はどうでしょうか? かつて書店で書籍を注文すれば1週間はかかりました。地方では2、3週間かかることもザラでした。しかし、いまではアマゾンから1日で届きます。国をまたいでも数日で届きます。国際宅急便も驚くほど進化してきました。移動の利便性向上は、各国民にほんとうの自由を与えています。将来、日本からヨーロッパは数時間でつながるはずで、そのときには、想像もつかない世界が待っているはずです。
その情報と流通があらたな製造業を創りあげようとしています。たとえばローカルモーターズは、図面をオープン化し、世界中から叡智をつのっています。仕様を公開することで、それをどう改善すべきか、なんと無数の意見を取り入れるシステムです。ここには自社の設計者とか、サプライヤの設計者とか、あるいは一般の趣味人などの垣根はありません。グッドアイディアを出したひとは、ひとしく報われます。設計だけではなく、部品調達の嚆矢でもあります。既存大手メーカーのサプライチェーンを活用し、水平分業を極限まで推し進め、「グローバル、クイック、フラット」なモノづくりを志向しています
GMはシボレー開発に6年と65億ドルを費やしました。テスラのロードスターはおなじく6年で、費用は2億5000ドルでした。それにたいして、ローカルモーターズのラリーファイターは18ヶ月と300万ドルでした。このすごさ! コスト削減などというレベルではありません。起きているのは、企業革新というべきレベルです。情報と流通を革新できる企業は、異常なほどの成果をもって市場に台頭しようとしています。
これまでサプライヤを知っていることと、サプライヤを探してくることが、調達・購買担当者の役割でした。しかし、「グローバル、クイック、フラット」なモノづくりにおいては、仕様を公開することで、サプライヤが勝手に集まってきます。調達・購買担当者が探す必要はなく、サプライヤが調達企業を見つけるわけです。
そのとき、調達・購買担当者の仕事は残っているでしょうか。ほとんどのひとはいいませんけれど、これこそが調達・購買部門の考えるべき課題だ、と私は思います。すなわち、グローバル化と情報革命・流通革命が起き、その利便性ゆえに調達・購買の仕事がなくなってしまう悪夢。もちろん、それは企業にとっては悪夢ではなく、効率化なのでしょう。ただ、サプライヤと自社のマッチングがあまりに機械的に完結してしまったら、私たちはどんな付加価値をあげるべきでしょうか。
もう一つの潮流は、製造業のEMS化です。これからは自社生産分をどんどんEMSに出せばいい。この流れは止まりません。このEMS化という潮流も、自社生産のために部材を買い集める調達・購買機能の重要度低下と把握しているひとはほとんどいません。おなじく、EMS化が進んだときに、私たちはどんな付加価値をあげるべきでしょうか。
「調達スーパーサイヤ人なる方法」とタイトルにつけました。これに完全な回答はないものの、まずは「情報」と「流通」の動きに敏感になること。そして、新たな付加価値について考えることと私は思います。