絶望調達を生まれ変わらせた言葉
誰かの意見を聞く--ことはすべてのビジネスパーソンが経験します。現場の調達・購買担当者であれば、毎日のようにサプライヤから提案を受けているでしょう。または、同僚や部下から会議などで意見を集めることはよくあるはずです。
そんなとき、どうしても否定したい場合があります。ハナから間違っていること、勘違いしていること、論理的につながらないこと、突拍子もないこと。まあ、正直いって「バカげた」意見が多々あります。そんなときに、先人たちは「いきなり否定するな。まずは相手の意見を聞いて、受け止めてあげなさい。それから自分の意見をいうのだ」と述べてきました。聞いた瞬間に、違うな、と思っても、まずは「なるほどね」と受け止める。その後に、「ただ、ちょっと違うんじゃないか」と伝えなさい、と。
これは、英語では「Butではなく、Yes, but」と語られてきました。実は私もこの方式をかなり使っていました。しかし、です。このやり方は正しくないのではないか、と思うに至りました。たしかに、その場は良いのです。しかし、人間は結局のところ、「最後の言葉しか覚えていない」のです。序盤は良くても、後半がダメならば、そのダメな印象だけが残るのです。
だから、「Yes(まずは、『ええなあ』で受け止め)、その後に but(でも違うんじゃないかと伝える)」としたら、最後のbut、否定された印象しか残りません。これは良いことなのでしょうか。きっと、改善の余地があります。私は現在、多くのひとの意見をきいて、それをまとめたり、あるいは改善の方向をつけたりしています。そこでわかったのが、「Yes, but」ではなく「But, yes」が良い、ということでした。
「But, yes」とは、つまり「違う。これは間違いだ」と従来通り受けて、そのあとに「でも、こんな観点から意見をあげてくれてありがとう」と述べるものです。「ただし、意見自体は大変おもしろかった」と。「でも、意見の発想は興味深い」とかね。これで、だいぶ印象が異なるのです。
さらに、改善しようとすれば、達人レベルでは「Yes, but, yes」と挟み込むようです。まずはYesで受け取り、最後もYesで終わる。これは、すぐに実践できて、かつ変化をもたらすノウハウだ、と私は思います。しかもお金は1円もかかりません。
ところで--。ヒアリング能力が調達業務にとってもっとも重要であるにもかかわらず、OJTが中心で、さほど体系だった教育が施されてはいません。私は、臨床心理士などのノウハウが調達・購買にも応用できるのではないか、と思っています。臨床心理士は、まず相手を受け止め、そしてカウンセリングを経て、相手を着実に改善させねばなりません。
先日、某有名臨床心理士の講演を聞きにいったときのことです。それまで誰の意見も聞かなかった少年犯罪者と面談することになったようです。しかも殺人です。その少年は、それまでにやってきた臨床心理士の誰とも口をきかなかったようなのです。そこで、その先生は、少年になんと声をかけたか。
みなさん、想像できますか? あるいは、みなさんが殺人者と対面するときに、なんと声をかけますか?
その先生は、一言「君にはそうするしかなかったんだよな」と述べたそうです。少年は泣き崩れたようです。これは凄い言葉の選定だと、私は思いました。
言葉の一つで、ひとが動かなくなったり、逆に動いたりする。言葉の探求だけは疎かにしてはいけないと思うのです。