先輩の調達・購買スキルを超えるなんて当たり前
女子のフィギュアスケートで4回転を決めるのは普通になりました。
しかし、男子のフィギアスケートでも、4回転ジャンプは、つい最
近からにすぎません。なぜ、オリンピック選手の誰もがやりはじめたのか。それは「トップの選手がやったから」としかいえません。つまり、4回転が当たり前の世界になったので、自分もオリンピックを目指す以上は、4回転を目指して当然と、意識が変わったのです。
話は変わるようで変わりません。
私は多様な音楽が好きで、いつも何かを聴いています。ジャズ、クラシックから、ポップス、ロック……。そのなかで、技巧的なヘヴィーメタルを聴くと、80年代と現代の違いに卒倒します。たとえば、ドラムのツインペダルの正確さ、ハットのキレ。ギターのリフの正確さ、ソロの組み立て。現代のレベルが高いことに驚愕します。別に昔のアーティストが下手だったわけではありません。その時代では先端です。もし現代に生まれていたら、現代のレベルで演奏できるでしょう。
人間社会というのは、つねに、昨日よりも良く現状を変えようとします。だから、個人のレベルでも昔と現代のプロでは、まったくレベルが違うのです。
牧歌的な時代は過ぎ、子供の教育でも、幼い頃から専門の音楽学校に行かねばプロにはなれず、特定の受験塾に行かなければ受験戦争に勝つ可能性はきわめて低い。それがもう常識になっています。
少し前に、仕事の関係で、70年代~80年代に編まれた経営者のインタビュー集を読みました。伝説の経営者といわれるひとのインタビューもたくさんありました。しかし、その経営者たちもインタビュアーも、レベルが高いとは思えません。さらに「なんだかんだいって、高度成長に助けられて企業を成功させたんだな」という思いから逃れられませんでした。たぶん、あのていどの見識なら、現在マネージャー職なら誰でも有しているのではないかと思う程度です。
いまの企業トップで、後世に伝説の経営者といわれるひとはほとんどいないでしょう。しかし、実際の能力は現在の企業トップがはるかに上のはずです。現代に解決せねばならない解題のほうがはるかに広く、そして深い。さらに昔では信じられないほどの倫理観も求められます。
きっと、むかしの調達・購買部員が、いまの調達・購買部員の仕事を見たら「あれも、これも、なんでもこなさなければならない」と驚くはずです。昔は良い時代だったかもしれませんが、戻ることはできません。もう私たちは、必然的に、複雑怪奇な問題を解き、さらに自分自身をレベルアップさせる運命にあります。環境があまりに早く(速く)変わっているからです。
ただ、同時に、学習の機会は昔より豊富に提供されています。やる気になれば、ネットで動画を見ても勉強できます。私が入社したときは、海外の書籍を読もうと思ったら、紀伊国屋で取り寄せるとメチャクチャな日数がかかったものですが、いまでは電子書籍で瞬時に読めます。毎日、いまの自分より、0.1%ずつでも実力を増していけば、一年後には1.44倍の実力がつきます。
私は若手とか、あるいは自分の子どもにいっています。「先輩とか、親のレベルじゃまったくダメだ。でも、先輩と親を超えるなんて楽しくていいね」と。