役に立たない調達戦略を作り続ける理由

田中角栄さんにはドブ板選挙戦略がありました。文字通り、ドブ板です。たとえば、農村をまわるとします。そのとき、角栄さんは、白いズボンを用意して、そのまま田植え中の農家の方に向かい田んぼに入って、握手を求めるのです。もちろん、白いズボンは真っ黒になります。でも、角栄さんがわざわざ握手をしに田んぼの真ん中に来てくれるのです。それは角栄さんに票を投じますよね。角栄さんは、白いズボンを大量に用意していたのでした。

ところで、この話を聞いて、「それは『ドブ板選挙戦略』じゃなくて、『ドブ板選挙戦術』じゃないか」というひとがいます。そんなのどうでもいい話じゃないでしょうか。戦略か戦術かなんて自分で決めればいい話です。それよりも、行動をしなければ結果はもたらされません。

話を変えるようですが、話は変わりません。

先日、オフィスの掃除をしました。すると、10年以上前に私が人生の野望を書いた紙ファイルが出てきました。読んで驚いたのは、そのほとんどが実現していたことです。「本を出版する」とかもろもろです。

ここまでお読みになって、私が「目標を紙に書く大切さ」とか「夢は実現化する」といった話をすると思われた方、それは違います。実は、私もそう考えていた時期がありました。ただ、このところ、逆のことを考えています。それは「実現するから書いた」のではないかと。ややこしいのですが、私たちは全身で予言的な存在です。そのひとが考えつき、強く願えることは、すでに実現することが決まっている。だから私は紙に書いたのです。さらに逆をいえば、「本を出版する」ていどの野望しか思いつかない人間には、そのていどの将来しか待っていない……。

実はきわめて重要な話なので、これを飛躍させます。これは今週に開催する調達戦略セミナーの宣伝ではありません。なぜなら、もう満員で募集していないからです。

私はよく「調達戦略書はゴミ箱に捨てられるのが運命」と話します。部長報告、課長報告のみに使われて、翌日から誰も調達戦略書なんて読んでいないからです。それはなぜでしょうか。現状追認だからです。また、もともと共有していた考えをまとめただけ。これではそもそも戦略の体をなしていません。

でも、さきほどの話を照らすと示唆的です。というのも、凡庸な現状追認しか記せない調達担当者には、たしかに、そのていどの将来が待っていることになります。そして、調達業務はいつも進化がないままです。私たちは何をすべきなのでしょうか。現状追認を止めることです。そしてそのためには、できるだけ現状の悲惨さを味わいつくすことだと私は思います。

私は奇妙な理屈を話しています。将来の戦略なのに、なぜ現状の悲惨を味わうべきでしょうか。それは現状追認しないようにするためです。ダメダメで酷い現状と、このまま放置していれば悲惨な将来が待っていると、リアルに感じなければ戦略が生まれないからです。

繰り返すと、戦略が何だとか、戦術が何だとか、そういう話はどうでもいいことです。行動を促す作戦が大切です。

個別品種の戦略を作っているとします。作成者は調達担当者としましょう。そのとき、まずやるべきは、「見たくない現実」をずっと見続けることです。ノートやカードに、自分のできていないこと、問題と認識していること、悩んでいることを、13個ほど書いてください(経験則から13とは人間の脳が処理できる最大数です)。書きたくない、他人に見せたくもないレベルのものを、あえて書きます。それでノートを見続けてください。ここで苦しむのが重要です。

そして、次に、その業務で実現したらいいなと思うことを、おなじく13個ほど書いてください。そして、それをじっと見続けてください。さきほどのダメダメの13個と、理想の13個を交互に見て何を感じるでしょうか。その違和感こそが戦略につながります。さらにいえば、実際にやっていただければ、そのとき、あなたが実現できることはすでに拡大しているはずです。これはオカルトではありません。

見たくない現実とずっと向き合えることこそ、強い調達づくりの一歩だと私は思います。ほら、その証拠に、べらぼうに高い報酬を払ってコンサルティング会社に作ってもらった調達戦略なんて、すぐ誰もが忘れているでしょう。わはは。

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