「1社からしか調達できない」という嘘
先日、あるところで講演しました。内容は、「日本企業の調達リスクヘッジはどうなっているのか」なるもので、調達・購買以外のひとにむけたものでした。こういう異なるジャンルの聴衆を前に講演する機会が多く、そのたびに刺激になります。
そのとき、私が「マルチソース(複数社購買)している特定製品は、実際のところほとんどない」と発言したものですから、質問が相次ぎました。「報道では、企業が複数社購買を進めているというが、あれは嘘なのか」とか「先日、調達部長と話したら、複数社購買比率が上がっている、というけれど、どういう意味なのか」とか。もちろん個別にはわかりません。
ただ、ここで大きな認識のズレがあるように思いました。というのも、いわゆる一般に、調達・購買部員は「製品群に複数のサプライヤがいる状態」を複数社購買と呼びます。しかし、一つの個別製品を、二つのサプライヤに委託しているケースはほとんどありません。金型費、開発コスト、品質調整、それぞれ倍かかるからです。言葉をかえれば、「プレス部品」というカテゴリーならば、複数のサプライヤがいます。しかし、製品仕様書番号AFG-1021とかの、一つの品目で2社から調達しているわけではありませんよ。そういうことです。
そうすると、面白いのが「そんじゃあ、意味ないんじゃない? 特定の製品を2社で分散させないと、リスクヘッジになるはずがない」という質問が出たことです。さあ、みなさんだったら、どう答えますか。
私は「はい、お金さえあれば、真の複数社購買もできます」と答えました。「あとは、費用対効果の問題です」と。
URLを貼り付けると、みなさんにこの文章が届かなくなりますので、ご自身で検索いただきたいのですが「生産・出荷集中度調査 公正取引委員会」と検索なさってください。そうすると、各業界・各製品領域のハーフィンダールインデックスが出てきます。これは、国内の競争度を示したもので1(正確には0に近い数字)から10000までを指します。そして、10000は日本で1社独占、1は無数のサプライヤがひしめく業界です。
これはハーフィンダールインデックスといいましたが、ハーフィンダールハーシュマンインデックスとも呼ばれます。詳しい計算方法はご興味あればお調べください。この数値をもとに、各業界・各製品領域を見ると、独占ってのはほとんどありません。「1社からしか調達できない」という嘘で、「事実上、1社になっている」というのが真実です。
しかし、それにしても、金型費、開発コスト、品質調整、それぞれ倍かけても、複数社購買すべきでしょうか。ハーフィンダールインデックスが示す通り、代替サプライヤは探せば、どこかにいそうです。もう、1社調達を前提として、万が一(災害や想定不能事態)のときの、生産復旧速度をあげたほうが良くないでしょうか。そういうことを昨年から今年は、さまざまなメディアで発言し続けました。
まだご理解いただける方は少ないのですが、ホンネの発言を続けていこうと思います。