サプライヤーを開拓する方法 1
「50社のサプライヤーを担当していれば、年間1社は倒産処理に遭遇する」。近年の日本における廃業率のデータから導いたものだ。
倒産はいつどこで起こってもおかしくないことがいみじくも証明されたことになる。そしてバイヤーは、このような真実に目を背けることなく、あらかじめ対策を講じなければならない。具体的な対策の一つが、まえもって取引をおこなっているサプライヤーと同じ製品・サービスを供給可能な、別のサプライヤーソースを開拓しておくことである。
私はバイヤーとして、積極的に海外サプライヤーからの調達を推進している。しかし一方で、ほんとうに調達・購買しやすいサプライヤーとはどんなものか、について一つの答えを持つに至っている。その答えの一つは、発注側と受注側が距離的に近いことである。国内に発注側が拠点を構えるのであれば、国内サプライヤーは距離的な近さによるアドバンテージで、引き続き有効なサプライヤー候補になりうるのである。
実は1990年代に「開廃業率の逆転」ということが問題になっていた。新たに事業を始めるよりも、事業をやめる会社が多かったのだ。そして、そのような状況を憂い、各都道府県の中小企業振興公社(名称は各公社でいろいろ工夫しているので実際バラバラである)が、積極的に発注側と受注側のマッチングを意識した商談会を開催している。
最初にご紹介する新規サプライヤーの開拓方法は、行政機関もしくは、その外郭団体で主催されている「商談会への参加」である。私はバイヤーとして現在、東京都内に活動の拠点を構えている。東京だけでなく、その近郊にも目を向ければ、2月、3月で3~4回の商談会が開催される。
私が商談会への参加をオススメする理由は2つある。
第一に、発注側として参加する場合は、無料であること。当日会場での飲み物や、主催団体によっては昼食も提供される場合がある。巡り巡って使われているお金は、要は税金。形式はどうあれバイヤーであると同時に納税者であるわれわれは、積極的に活用すべきだし、無料って事は、会社の財布にもやさしいことになる。
第二に、主催者は発注側企業を集めるのに、非常に苦労していること。規模が大きかったり、名の通った会社だったりすれば、なおさら商談会への参加は大歓迎される。そして確実にサプライヤーからの面談申し込みも期待が持てる。自社の価値を再認識する格好の機会になるはずだ。
参加するプロセスはこうだ。まず近隣の中小企業振興公社のホームページへアクセスして、商談会の有無を確認する。最寄りの中小企業振興公社はこのページで確認が可能で、各団体へのリンクも貼られているので御参照されたい。
ここで一つ重要なポイントをお伝えする。私はこれまでに、北は北海道、南は九州まで、全国の中小企業振興公社とアクセスしてきた。そのほとんどが、ICT技術を無視したような一世代前の事務処理を行っている。これから説明する申し込みも、発注側の基本的なデータやニーズを記載する申込書があるが、手書きで、なおかつFAXでの提出となっている。しかし、その面倒な作業の先には、前向きな姿勢を持つサプライヤーが数百社待っている。そんな事実に免じて、面倒くさいなぁ~と思う作業でも、ぜひやってみていただきたい。
さて、発注側としての申し込み方法である。
申込書を入手して自社データおよび、発注予定品目を記入する。神奈川県の例をだすのは、このスタイルが今全国での標準になりつつあるからである。実際神奈川県の商談会へ出席するために作成した申込書の記載内容で、全国の商談会への申し込みが内容的に可能となるのである。
記入時のポイントは、もちろん発注品目に関する内容だ。ぜひ実際に発注を担当しているバイヤーが記載することをお勧めする。そして、ぜひとも発注品目をその仕様、材料、寸法、加工方法等々、事細かに記載すべきだ。例えば、樹脂成型品とか、電気組立といった大きくくくった記載してしまうと、いろいろなサプライヤーが該当してしまう。そして当日も実際のニーズとはほど遠い業務内容のサプライヤーとしか面談できないことになる。従い、発注したい製品に関して具体的に、そしてわかりやすく、発注側のニーズを記載するのだ。
事細かに自社の要求事項を明記した場合、多くのサプライヤーには巡り会えない……そんな不安を感じるかもしれない。でも、自分が探していないサプライヤーと何時間話しようとも、新規開拓にはならない。そして自分が商談会へ参加するポジションを明確にし、新規サプライヤーを開拓するという目的実現のためにも、ニーズの記載には細心の注意を払って行うことは重要なプロセスなのだ。
申し込みが完了すると、主催者より申し込みを受領した旨、連絡がある。申込書の記載内容によっては、担当者から記載内容の確認を求められる場合もある。確認を終えれば、申し込み完了となる。
開催の約一カ月前に、受注企業のリストが送付されてくる。これは主催する団体によってまちまちなのだが、CD-ROMによる送付もあれば、すべて文書による非常に重厚なサプライヤーリストが送られてくることもある。送られてきた資料が膨大であっても、あまりにも厚い紙の資料に閉口することもあるが、ここはひとつ、新規サプライヤー開拓の第一歩として、すべてに目を通すことをおすすめする。
そして、話をしたい目ぼしいサプライヤーを見いだしたら、発注企業側から指名商談を申し込むことも可能だ。当日の商談会をより有意義にするため、目的を達成するための準備である。主催する団体によっては、数百社にも及ぶ非常に多くのデータが送られてくるが、千載一遇のチャンスをモノにするために、少なくとも発注したい品目に関連する業種に関するサプライヤーだけは、すべてを参照すべきなのである。
そしていよいよ商談会の当日である。商談会の実施方法は、主催団体によって異なっている。とにかく多くのマッチングを実現させるために、数多い発注・受注側の面談(一回の商談が12分)をおこなう場合もあれば、ある程度じっくり時間を費やす(といっても30分程度)場合もある。これまでいろいろな商談会に出席してきた経験から言えば、商談会における面談だけで採否が決定することはない。次に続けるかどうかを判断するだけだ。「次」とは、ちゃんと話をする時間を設けるとか、具体的な見積依頼を行うといった事である。
このような流れで、多いときは一日に約二十数社のサプライヤー候補と面談することが可能である。発注側ニーズである製品、そして地域ごとの産業集積にも差があるので、総じて語るのは難しいが、要求する具体的な仕様や図面が固まっており、申し込みの際に提供した情報が的確な場合は、見積依頼まではこぎ着けるはずだ。見積依頼まで当日行き着かなくても、日を改めて詳細の話をするというつなぎ方も可能だ。
ここからは、商談会参加に際してぜひ気を遣っていただきたいことを述べる。
申込書提出に際して、自社のニーズを「わかりやすく」書くことをおすすめしたが、これには、商談会を活用するに際しての重要なポイントが隠されている。それは2つある。
一つ目は、先にも触れたが、自社のニーズを自分でわかりやすくする過程で、バイヤー自身がどんなリソースを社外へ求めているか、について整理できることだ。
現在発注している製品・サービスにしても、自社の事業運営のある瞬間を切り取って、その時の置かれた環境に沿った供給範囲になっており、それが実は特殊である場合がある。そんな自社の要求供給範囲が、新規サプライヤーの開拓を阻んでいる可能性もあるのだ。バイヤーからすれば、要求する供給範囲や仕様も前任者から引き継いだ内容かもしれない。しかし、せっかく大いなる可能性を秘めた新規サプライヤーへ出会うチャンスである。自社にとっては一般的であっても、世間一般で受け入れられる内容かどうかを見極める、そんなこともバイヤーの重要な責務の一つなのだ。
二つ目は、書いた内容が読まれる状況によるものだ。工夫を凝らして内容を吟味しても、サプライヤーが目にするのは、商談会の当日であったりする。当日の場合、短時間でサプライヤー側の担当者が発注側のニーズを見る必要があるため、わかりやすく書かないと、そもそも読んでもらえないか、読まれても大きな勘違いを持って商談会に臨まれる可能性が高いのだ。
そしてこの部分は、主催団体によって大きく差が出る部分で、事前にある程度マッチングを行う団体もあれば、そこは発注側・受注側の主体性に任せている団体もある。バイヤーにとっては、事前にある程度マッチングを行ってもらった方がありがたい。しかし、参加するサプライヤーの数が多い主催委団体ほど、マッチングの部分を双方の主体性に任される場合が多いのである。商談会出席とは、情報に接するサプライヤーの絶対数が多いほどに、自社とマッチする相手に出会う可能性も高くなる。従い、サプライヤーが最初に目にする情報には、細心の注意を払う必要があるのだ。サプライヤーが、バイヤーの書いた情報を目にした瞬間から、商談は開始されていることを肝に銘じて望むべきなのである。