もうやめにしませんか?

「このひとは、いったい、何をいっているんだろう?」

あなたは、こういう経験がありませんか。会議などで質問を募ると、まったく頓珍漢な質問が出てくる経験です。しかし、質問者はふざけているのではなく、真面目な様子。「おいおい、これまでいったい何を聴いていたんだ」と憤りたくなるような場合です。

私は調達コンサルティングやセミナーなどで、誰かにお話をする仕事に従業しています。しかし同時に、受講者の立場になって、誰かの講義をよく聴くようにしています。その際に驚くのが、同じ立場である、他の受講者が発する質問です。「あれれ、そんなこと、講師の話とは無関係だぞ」とか「そんなこと訊かなくても、講師の話をちゃんと聴けばわかるじゃないか」と思ってしまう場合が少なくありません。

たとえば私の講義で、そのような質問が出たらどう思えばいいのでしょうか。もちろん答えは一つしかありません。「ああ、私の伝え方が悪かったのだな」。そう考えなければ、もちろん話者としての成長も見込めないでしょう。

しかし、あるとき、こんなことがありました。私のコンサルティング現場でのことです。ある企業で、上司の方が、部下の方にプロジェクトの説明をしていました。そこで出た部下からの質問が、まるで、それまでの1時間の説明を聴いていないようなものでした。そこまで理解できていないのであれば、途中で止めて確認すればいいのに、そもそも、「何がわからないか、わからない」といった状況のようでした。

これは特別な例ではないのです。私が客観的に見て、クリアでわかりやすい説明をなさっているのに、一部のひとはぜんぜん理解していない。これは、なぜなのだろう、と不思議でした。そんなとき書籍『AIvs教科書が読めない子どもたち』を読んで、衝撃を受けました。これは、日本人の少なからぬ割合が、ほんとうに文章を正しく理解できていないのだ、とする驚愕の研究結果をまとめたものです。

たとえば、こんな例題が紹介されています。

問題1
「火星には、生命が存在する可能性がある。かつて大量の水があった証拠が見つかっており、現在も地下には水がある可能性がある」

かつて大量の水があった証拠が見つかっているのは(  )である。
(1)火星
(2)可能性
(3)地下
(4)生命

当然ですが、(1)です。しかし、これがわからないひとがいる。

あるいは、こんな例題です。

問題2
「幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた」

表す内容と以下の文が表す内容は同じか。「同じである」「異なる」のうちから答えなさい。

「1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた」

こんなの「異なる」にきまっているじゃないか、と思います。しかし、同義文判定ができないひとたちは、間違えます。

または、こんな例題です。

問題3
「ある中学校の3年生の生徒100人の身長を測り、その平均を計算すると163・5cmになりました。この結果から確実に正しいと言えるのは、次のうちどれでしょう」

(1)身長が163・5cmよりも高い生徒と低い生徒は、それぞれ50人ずついる。
(2)100人の生徒全員の身長をたすと、163・5cm×100=16350cmになる。
(3)身長を10cmごとに「130cm以上で140cm未満の生徒」「140cm以上で150cm未満の生徒」…というように区分けすると、「160cm以上で170cm未満の生徒」が最も多い。

これも(2)だけです。しかし、なんとなく思い込みを照らし合わせて(3)と答えてしまうひとが多い。正しく資料を読めていないのです。書籍『AIvs教科書が読めない子どもたち』にはこれらの驚くべき結果が載っています。

たぶん、当たり前に正解できる方々からすると、間違ってしまうこと自体が理解できないはずです。しかし、こういう文章を正しく読み解けないひとがいる、と認識することは重要な学びを与えるでしょう。それは、「易しすぎることはない」という事実です。そして、「基礎こそが重要だ」という事実です。ただ、あなたのまわりで「このひとは、いったい、何をいっているんだろう?」と思っちゃうひとは、実際に日本語を理解していない可能性があります。書類を理解していない可能性が高いのです。

よく、毎年のように、調達戦略の名称で難しい施策や、どっかのコンサル会社から拝借したようなカタカナ施策が並んでいる企業があります。でも、それって、そもそも部員は理解しているでしょうか。日本語をそもそも理解しているでしょうか。私もいろいろなことをいっています。しかし、調達・購買業務で重要なのは、「会社の方針を知る」→「調達部門の方針を知る」→「与えられた役割を正しく理解する」→「書類を正しく理解する」→「ちゃんと考える」→「施策を実行する」→「うまくいかなかった点を、今度は上手くいくように改善案を出す」、という、考えてみれば誰でもわかる常識です。

ですから、もうやめにしませんか? 変に概念をいじくったような調達施策は。それよりも、日本語ドリルをやったほうが、調達スキルは向上するはずですよ。そして、そのうえで、基礎スキルを身につけたほうがいい。書籍『AIvs教科書が読めない子どもたち』から引用しましたが、私は、日本語と基礎の重要性を、ほんとうに感じているのです。

(今回の文章は坂口孝則が担当しました)

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