これまでの常識④-1・・・コストが安いほど良いと思っている「安ければそれで良いのか?」(調達・購買とは何をするのか)

「購買が安くできなかったからダメだったんだ!」

あの頃のことを「地獄の半年」と呼ぼう。

そう総括したい時期があります。

私が新製品の開発チームに関わっていたときのことです。その新製品は、自社の歴史で例を見ないほど市場に大量投入する予定のものでした。

当初は、あらゆる手を使って「なんとかして、その新製品に組み込む部品を安くしよう」と意気込んでいたものです。色々なサプライヤーから相見積りを入手します。そして、社内に連絡する。すると、「かなり安いが、新製品全体として、まだ目標未達成だから、もっと頑張ってくれ」という通知。

しかたがないので、海外のサプライヤーにも範囲を伸ばしました。英語で書くメール、アジア訛りの聞き取れない英語でかかってくる電話。時差があるところとは、深夜まで居残り連絡を交わす。やっと、「これは安いから、早く設計的な打ち合わせをしましょう」と社内に問いかけると、「基本設計を見直すことにした。もっと安くしないといけない」とたった一通のメールだけで失望させられる私。

そこから、私は新しい設計コンセプトの仕様書を受け取りに設計部門に走り、それを急いで持ち帰っては、PDFに変換し、お詫びとともにサプライヤーに送ることを繰り返しました。「せっかく、安い見積りを頑張って出したのに、台無しですか?」という皮肉にも耐え、「どうかご理解して欲しい」と謝る日々。

「今度こそ、これでいきましょう」と報告しても、「まだ、ダメだ。もうちょっと」と言われ、サプライヤーと交渉を繰り返していました。本来は新しい仕事の引き合いなので喜んでも良いはずのサプライヤーから聞こえてきたのは、「もう、いつになったら終わるんですか」と呆れにも近い声だったのです。

もう、やっていられない。そう思った私は調達・購買部門の先輩や上司に相談しましたが、「目標コストに届いていないのであれば、そこのサプライヤーのトップを呼んで強い口調で交渉するしかないな」と言われるだけでした。それは違うだろう、と思いましたが、それが通じません。

そんなこんなで、設計仕様すらまともに決まらないまま半年が過ぎていきました。

すると、私の苦悩は突然終わりを告げることになります。

私の会社の競争相手が、同じような新製品を早く大量に市場に投入したため、これから参入する意味が見出せないと判断されたからです。製品コンセプト作りの後から、私が参加して、わずか半年のことでした。

私は正直言って、安堵してしまいました。しかし、それよりも印象に残っているのは、開発チームの解散会のとき、設計部門のトップが「それにしても、この失敗は、購買が安くできなかったからなんだよな」と言っていたのを聞いたことです。

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