調達・購買担当者の決断について

先日、ある若い会社員から相談を受けました(二十代・男性)。このメール
マガジンをお読みかもしれません。ご本人いわく、漠然ではあるものの「独
立してやってみようかな、と考えているんですが」とのこと。そのひとは会
社で資材調達を担当しています。私は正直びっくりしました。調達・購買コ
ンサルとして独立しようとするひとなんて、いないと思っていたからです。
すると「違いますよ。自転車の輸入販売をしたいと思っています」と。私は
一度も自転車に興味をもった経験がないので、これまた想像を超えたもので
した。

それならば「やってみたら」という私に、「資金がないし、店舗運営の経験
もないし」とおっしゃる。なので、私はいまなら低金利で融資を受けられる
ことや、店舗経営のセミナーだって本だってたくさんあると伝えました。数
百万円あれば始められるはずです。そうすると、「大丈夫でしょうか」とい
うのですね。さらには「借金って返せなくなったらどうなるんですか」とも。
「うまくいく保証があればいいんですが」と。

あのね。新たなチャレンジをしようとして、「うまくいく保証」なんてもの
はありません。ただ、このひとはまだいいほうで、なかには「結果を見せて
くれ、それなら信じる」とアドバイスを求めたひとを疑ってかかるひとさえ
います。

調達・購買担当者は、仕事柄ひとりで何も決めることができません。新しい
技術、サプライヤ、仕様、すべてを社内関係者の意見を訊かねばなりません
から。しかし、それにしても、自分自身の決断も他人に任せるのはどうでし
ょうか。

決断とは、「決めて断ち切る」と書きます。何かに決めて、それ以外の選択
肢を断ち切る必要があります。何かと何かの選択肢で、悩んでいるというこ
とは、ようするに「どちらの選択肢を選んでも一緒」ではないでしょうか。
それならば、どちらかをまずは選び、選んだほうが「正しかった」と思い込
んで、勘違いして、ひたすら進むしかありません。

ちょっと神がかり的なことを書きます。私の師は、こう教えてくれました。
「転職とか、独立とか、なんでもいいけれど、人生の重大な決断をくだすと
きに、三つの障害が出現する」と。たとえば、転職しようと思ったら、現職
の成績が向上したとか、大事なお客から感謝されたとか、転職なんてしない
でと恋人が泣き始めるとか。三つの障害が出現する、と。そして、師は「そ
の三つの障害というのは、ほんとうに自分自身に覚悟があるかを試している、
すなわち試練みたいなもんだ」と。

そうか。三つの障害かーー、とその日以来、私は心に留めています。

私は、前述の社員に問いました。まだ独立には至りません。それならば、い
まは独立すべきタイミングではないのでしょう、きっと。決断が確固たるも
のとなり、三つの障害を超える覚悟をもったとき。そのときにはお会いしま
しょう、とお話して別れました。

そして、覚悟を持つ勇気こそ、きっと私たちに必要ではないかと思うのです。

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