調達・購買はモーレツに、ビューティフルに(調達・購買とは何をするのか)
「お前、この分のカネ払え!」
日本は半社会主義国家だ、と言う人がいます。どんな仕事をしても、ブルーカラーもホワイトカラーもほとんど同じ給与ではないか、と。成果はほとんど給与に反映されず、同じ会社であれば、同期差と言ってもほとんど違わない。今では、だいぶ給与に格差がつくようになってきたとは言え、製造業ならば、それでもなお給与格差などあまりつかないことが多いのではないでしょうか。
こういう言説は特に、事務系の社員からなされます。本音で言えば、「俺たちは有名大学を卒業したのに、現場で働いている人たちとあまり給与が変わらないではないか」と。この本音は、自分たちの仕事に自負を持っていることの裏返しですから、ほほえましいと言うこともできます。
しかし、事実はどうか。各種の調査で明らかになっている通り、日本の製造業では、工場で働く労働者たちの生産性は世界でトップレベルであるにも拘わらず、事務系社員たちの生産性は世界でワーストレベルです。構図としては、生産性の高い工場労働者に事務系社員は「食わせてもらっている」ことになります。事務系の給与が恵まれていないどころか、同じか、あるいは低くてしかるべきだ、ということです。調達・購買の現場を思い出してみれば良く分かるでしょう。何も付加価値を生み出していない社員がごろごろいるはずです。
私がこの事務系の付加価値について強烈に意識しだしたのは、これまた強烈な上司によってでした。
その上司から何か依頼があるときは、こういう会話があるのです。「このサプライヤーについての資料作っておけ。報告資料用だ。盛り込む内容は、これと、これと、これ。観点は、これとこれを入れておけ。情報が足りなければ誰々が持っている。分かったか。分かったな。よし」と言って、早足で会議室に消えていきます。この依頼は約3秒で話されています。そんな早口で上司にまくしたてられたら、誰だって、「分かりました」とだけしか言えないでしょう。
そして、1時間後に上司は戻ってきます。そしたら、その早口で私に、尋ねます。「おい、できたか。できてない? なぜ? 何が起こったんだ」。私が、「いや……、ちょっと他の用事が入りまして……」と言うと、「どんな用事だ、何が、どれだけ入ったんだ?」と責められます。私が「いや、設計さんから問い合わせがあって……」と答えると、「お前は、たったその一件だけの質問で、1時間もつぶしたと言うんだな。分かった。その質問を受けてから、答えるまでの経緯をもう一度やってみろ。俺が1時間かかるか見ててやる」と返されます。もちろん、2秒くらいの速さです。
私は、「いや……、もちろんそれだけじゃなくて、分からないところもあって、遅くなっています」と再反論を試みましたが、「なぜ俺に訊かない? なぜ俺に訊かない? お前は、その時間も給料もらってんだぞ。お前が1時間で成し遂げた仕事見せてみろ。その分で、会社は5千円くらいかかってるんだぞ。お前、5千円で、お前の仕事買うんだな、買うんだな」。もうイジメでした。「いや、あまり速くやると、資料が雑になります」と最後のあがきを言うと、「誰がそんなことやっていいと言ったか。仕事は速く、そして深くやるんだ」。私が答えに詰まると、「だから、お前がムダにした分は、お前が払え!」。わずか、1分くらいの出来事でした。