「調達力・購買力UPのために出会わなければいけない30人」~泣いてくれる先輩~

私が以前会社を辞めてしまったときのことです。業務時間中にある最後のお
別れの言葉は遠慮しました。たかが私の退職くらいで、みんなの時間を拝借
するのはどうも気が引けましたし、できればそっと消え去りたかったからで
す。

しかし、ありがたいことに何十人からも「最後に呑みに行こう」と誘われて
しまいました。そのうちほとんどはお断りをせざるを得なかったのですが、
あまりにお世話になった数人の方とは呑みに行くのが礼儀。

その飲み会の席のことです。目の前に座っているのは、親子ほども歳の離れ
た設計の役職者です。その人は席に座るなり、一言こういいました。

「バカヤロー。本当に。本当にバカだ。お前、なんで最初に俺に相談しなか
ったんだよ」

来たことが失敗だったと思いました。そこから、1時間ばかり説教タイムの
はじまりです。しかし、徐々に態度が変わってきました。

「だからなあ……。何でだろうなあ。あれほどお前のこと、『良いなあ』と
思っていたのになあ……」

その目には涙が溢れんばかりにたまっていました。お涙頂戴もののドラマな
ど大嫌いな私ですが、そのときは自分の決断が正しかったのか自信が持てな
くなったのです。私のことをこれほど評価してくれていた人がいた。しかも、
身近に。

「ありがとうな。ありがとう」

酒のせいもあったのか、そこからは逆に私のことをいかに評価していたかを
伝えてくれ、思い出話に花が咲きました。最後に交わしたかたい握手は忘れ
ようにも忘れることができません。人は、他人のことを評価していたとして
も、あらたまって評価の言葉を投げかけることは稀です。したがって、その
人のことをどれだけ大切に思っていても、大切に思われている人がその心を
再認識できる機会は多くない。だから、その人がいなくなることが決まらな
いと、感謝の意を受け止めることもありません。

私たちは、心のどこかで、現状が変わらないとばかり思い込んでいます。し
かし、人は変わり続け、状況も変化し続けています。私たちは何をすれば良
いのでしょうか。凡庸な言葉でいえば、「日々、感謝している旨を伝える」
となるでしょう。しかし、日常で目の前の人が消え去ることをリアルに感じ
ることはできません。

その人がいなくなるときに、そっと涙を流すことくらいしかできないのかも
しれません。

人事異動の季節に思いを込めて。坂口孝則 拝

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