調達担当者からの恐るべき質問
「そりゃわかんないよ」。セミナーで質問を受けた際の、心のつぶやきです。
これから、奇妙な論理展開の話をします。「セミナー中に出る質問は答えようがない」「だから、講師の答えも適当になる」「しかし、それが良い」と、妙なものです。では、始めます。
セミナー中にご質問をいただくことがあります。大きく二つにわければ、「さっき説明をもっと詳しくしてほしい」「自社はこういうことに困っているのだが、どうすれば良いか」です。もちろん、前者はセミナー講師として答える義務を負っているでしょう。説明をお聞きいただき、納得して帰ってもらう必要があるのですから。
しかし、やっかいなのが、後者です。「自社はこういうことに困っているのだが、どうすれば良いか」と質問されたとき、本音では、答えようがありません。たとえば、「私たちはこういう製品の納期遅延に困っているのだが、どうすればよいか」とのご質問には、「詳細を確認しないとなんともいえません」しか、答えとして本来はありえないはずです(よね)。「サプライヤが見積り詳細をなかなか出してくれないのですけれど、どうすればよいでしょうか」とのご質問には、「両社の関係性や、そもそもの見積依頼書や、お互いの言い分を詳細に聞かないとなんともいえません」が、おそらく真摯な答えのはずです(よね)」。
私だけではなく、すべての講師の答えは「適当」にならざるを得ません。しかし、私は、それが良い、という意見です。
つまり、セミナー講師から、真に役立つ即効的な解決策を知りたければ、その講師をコンサルタントとして雇うしかありません。なので、そうしない以上は、答えはすべて「適当」になります。しかし、私はなぜその「適当」で良い、といっているのか。それは、その答えを聞いたひとが、「なぜ講師が、そんな答えをしたのか考える」からです。そこには、講師と受講者という、奇妙なそして確実な紐帯が必要です。
「私たちはこういう製品の納期遅延に困っているのだが、どうすればよいか」とのご質問に、ある講師は「安全在庫量を見直して、ストックするしかありません」と答えるかもしれません(私はそう答えないでしょうが)。すると、受講者は、なぜ「安全在庫量を見直すべきか」考えます。そもそも安全在庫量とは何か。そして、それを規定するのは社内の誰か。そして、それを修正すると、なぜ納期遅延が解消するのか--。
すると、安全在庫量のアプローチから、その限界を知るかもしれません。そして、サプライヤの生産工程改善、あるいはリードタイム設定、ロット設定の問題……など、安全在庫量をきっかけとして、考慮すべき内容が多々あると気づきます。ということは、つまり、講師が何を答えても、考え試行錯誤すれば、真実に近づいていきます。いや、これは笑い話や冗談ではないのですよ。ほんとうに、講師が何を答えても良いのです。
必要なのは、その講師が答えた内容を、「なぜこう答えたんだろう、あの人は……」と考え、社内に持ち帰って検討することなのです。そこでは、「その講師が答えたことを、それなりに検討してみよう」という信頼の一点のみがあれば問題ありません。
上記はきわめてゆがんだ奇妙な論理でした。でも、ほんとうなのです。私も学習の過程では、師匠から何を言われたかなんて関係ないのですよ。師匠がいったことは、「きっと正しいだろう」と思い込み、それを検証するプロセス自体そのものが、大切なのです。