今どきのサプライヤー訪問を考える 10

今回は、どちらかと言うと発生してほしくないイレギュラーな訪問である問題発生時のバイヤー対応について考えてみます。

問題発生時は、発生した原因によって2つの方向性があります。1つは、バイヤー企業側にその原因がある場合です。この場合は、まず自分たちの行動や立ち振る舞いを振り返って、原因を明確にします。その上で、サプライヤーへ自分たちの落ち度をわびる「謝罪」が、訪問する場合の最大かつ唯一の目的です。

例えば、バイヤー企業に落ち度はなくても、顧客からのやむを得ない、はっきり言えば、無理な要求の場合も同じです。もちろん顧客要求なので、前向きに対応する必要はあるでしょう。しかし、特にモノを扱っている場合は、物理的に対応できるのかどうかがあります。また、私たちバイヤー企業の訪問は、サプライヤーには負担です。少なくとも対応を余儀なくされる工場の担当者は、業務時間が減少し仕事が止まります。そういったデメリットを踏まえ、サプライヤーを訪問する必要性を判断し、できるだけ効率的/効果的にバイヤー企業のお願いを伝えます。

こういったケースで重要なのは、バイヤー企業の調達・購買部門として、どのような付加価値をつけるかです。これは、通常の業務と何ら変わりません。もっとも付加価値のない対処法は、顧客の意向や要求をそのまま伝えるメッセンジャーです。確かに、訪問して気持ちを伝えるといった効果はあるかもしれません。しかし、解決の具体的な手だてをサプライヤーにすべておこなわせるのでは、まさに調達・購買部門の存在価値が問われます。

対応のあるべき姿としては、まず顧客要求の内容を説明します。その上で、バイヤー企業としてどこまで対応が可能なのか、バイヤー企業社内の調整結果を明らかにします。例えば、顧客から契約納期繰り上げを30日要求されたとします。バイヤー企業におけるリードタイムはそのままに、ただサプライヤーに30日の納期繰り上げを要求するのがメッセンジャー的な対応です。

バイヤー企業内の見直し内容を説明し、顧客要求の30日のうち、10日はバイヤー企業で短縮努力をおこなうので、あと20日お願いします、といった依頼の方法ができるように社内を調整します。対応を一方的に依頼するのではなく、解決方法をシェアするスタンスがベストです。これが、調達・購買部門が創造する付加価値です。

こういった対応は、納期問題だけではなく、品質問題や供給範囲の問題といったさまざまなケースで応用が可能です。調達・購買として、顧客要求含む自社都合と、サプライヤー都合の間に立って、公平な判断をおこなった上で、具体的なお願い方法を決定します。

続いて、トラブル発生の原因が、サプライヤーにある場合です。これは、同じトラブル発生でも、調達・購買部門やバイヤーにとっての意味合いが大きく異なります。先ほどの例も同じですが、まずはトラブルの解消に全力を注ぎます。ここで重要なポイントは、トラブル解消に必要なプロセスに関連する情報の入手です。

トラブル解消にバイヤー企業とサプライヤーの双方で協力しておこなう姿勢を見せて、プロセスの共有を求めます。それにともなって、サプライヤー内部の業務にまつわるさまざまな情報入手が可能です。入手可能な代表的な情報は、次の5点です。

1.意志決定者
トラブル解消では、通常とは異なる対応が求められます。そういった事態に、サプライヤー側の誰がどのような決定を下して実行されるのか。意志決定する内容は異なっても、意志決定者は同じである可能性が高くなります。バイヤーであれば、サプライヤーのキーマンが誰なのかについては理解しているかもしれません。しかし、現場での実権者を理解し確信が深まれば、より効果的なアプローチが可能になります。

2.管理状況
これは一般的にです。納期にしろ、品質にしろ、管理レベルがどういった状況なのか。バイヤー企業は通常納入日や製品の機能や外観といった「結果」で判断しています。しかし、プロセスの解消プロセスを注意深く見ていれば、全般的に管理がおこなわれているかどうか、行き届いているかどうかが理解できるはずです。現状の掌握度合いとしては、トラブルの解消状況にまつわる報告内容について、手戻りや前言撤回があるかどうかで判断します。もちろんトラブル発生時は、現場は混乱しているでしょう。トラブル発生当初から改善していくかどうかを注意深く観察します。トラブル発生の渦中でもまっとうな事態の掌握と報告がおこなわれるかどうかで、管理レベルを掌握します。

3.品質管理システム
サプライヤーを採用する際は、品質状況の確認が欠かせません。しかし、問題が発生していない平時では、あくまでも書類上どうなっているかの確認がメインとなるはずです。もし発生したトラブルが品質に関係する話であれば、実際に品質管理システムが機能しているかどうかを確認する格好の機会になります。発生した問題の解消は最優先されるべきですが、問題の本質を見極めるためにも、書類に記載された仕組みがしっかり機能しているかどうかについて確認します。

確認すべきポイントは、品質確保を目的に事前に設定されたプロセスが守られていたのかどうか。守られていて問題が発生したのであれば、ルールが問題です。しかし、ルールが設定されていたにもかかわらず、その通りおこなわれておらず発生した場合は、ルール通りに対応しない可能性があり、バイヤー企業としての懸念は、サプライヤーのプロセス全体に広がります。また、ルール通りにおこなわれていない場合、ルールの是非にも目を向けなければなりません。

4.生産管理(納期)
納期遅延は、それまでの経緯を確認すれば、確実にその原因が明らかになります。私自身が経験した納期遅延問題でも、その多くは現場の問題よりも、現場の能力を管理部門が正しく理解していなかったり、厳しい納期設定を営業部門のごり押しで断らずに受注してしまったりといった、管理(間接部門)に原因がある場合が過半数以上を占めていました。加えて、管理部門と現場のコミュニケーションの悪さも大きな納期問題の要因になります。特に今の時期では、現場ではできないと言っていたにも関わらず、生産管理部門から営業へ、営業から顧客へ事実が伝えられずに、納期遅れが顕在化するケースが発生しています。こういった問題は解消を一義として、では真のリードタイムはどの程度なのかについても明らかにして、再発防止に努めます。

5.原価情報
これは、原価そのものの数値を入手できるわけではありません。例えば、サプライヤー社内のどの工程で、どんな作業が発生しているのかがわかると、ある程度の工数は試算可能です。サプライヤーごとに異なるであろうレートは、サプライヤーから入手している決算資料から計算するか、あるいは1秒=1円(¥3600/時間)と概算で計算すれば、算出可能です。

トラブル発生時は、できれば面倒かつイレギュラーな対応は回避したいと考えるのが一般的でしょう。しかし、バイヤー企業側に落ち度がある場合には、真摯におわびをするチャンスです。「チャンス」とは、少し語弊があるかもしれません。しかし、多くのサプライヤーでは、残念ながら真摯に顧客から謝罪された経験をもっていません。また、真摯に謝罪してもなお、対応を拒否され、対応が前に進まない場合は、サプライヤーとの関係が破綻している可能性があります。逆にバイヤー企業に落ち度があって、真摯な謝罪が受け入れられれば「逃げないバイヤー」と、サプライヤーから評価されるかもしれません。

また、サプライヤー側に落ち度がある場合は、情報入手の格好な機会と判断し、一義的なトラブル解消といった目的は忘れずに、積極的に対応します。そもそもトラブルが発生し、混乱している状態からは一刻も早く抜け出さなければならないのです。

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