3-(7)-2 JIT<基礎知識>「JITと現実」
最初にはっきりと申し上げなければならないのは、「多くの業界にとって『必要なものを、必要なときに、必要な数量だけ調達』することは幻想である」ということです。真のJITとは自動車産業や一部の特殊な業界のみで実現する、というくらいに考えておいてください。だからこそ倉庫機能を持つ商社が存在意義を発揮してきました。
これまでほとんどの企業における完全JIT化の試みは、サプライヤーへの短納期化の押し付けに終始してきました。自動車産業のように、バイヤー企業の生産ラインとサプライヤーの生産ラインが一対になっているような業界は特別です。しかし、一般のメーカーはそうではありません(実は、自動車産業であってもそんなに簡単なものではありません)。
「必要なものを、必要なときに調達する」という理念は素晴らしいのですが、そもそも下記の構図が成り立っていればJITという概念すら必要ありません。
考えてみれば当然ですよね。生産タイミングに合わせて発注して、そのとおりに納入され組み立てが開始されれば在庫量もゼロになります。このために必要なのは生産の平準化です。そして、月次の生産計画とサプライヤーへの伝達です。しかし、たいていの企業では生産量のバラつきや突発的な生産があるために(これは自動車産業も一緒)、在庫をたくさん抱えてしまうことになります。あるいは、短いリードタイムで発注せざるをえないときが多々あります。
こういうことが起きる(どこだって起きる)ので、矢印下部のサプライヤーのリードタイムを短くする、という方向に進んできました。これが専用ラインであれば、サプライヤーもなんとか追従する方向となるでしょう。しかし、汎用生産ラインであればそうはいきません。
結局のところ、調達・購買領域におけるJITとは「こちらが恣意的な生産変動をしたとしても、なんとかそれに合わせて納入してもらうようにサプライヤーのリードタイムを短縮する」という方向に進むことになります。
私は「JITとは幻想である」と書きました。JITという言葉を否定したように思われるでしょうが、そうではありません。JITから学ぶことは、その調達における「在庫ゼロ化」という結果ではなく、中心にある思想だからです。その前提は、「必要なものしか作ってはいけない」という確固たる信念に立脚しています。不要なものがもし発生しているとすれば、そこには必ず改善の余地があります。「こういうもんだよね」という諦観に流されるのではなく、「何が悪いのか」「どういう手法であるべき姿に近づくことができるのか」ということを一つ一つ考え、解決策を模索し、検証してゆく地道な「生き様」がそこにはあります。
売ったものしか、お金は入ってきません。こんなことは当たり前です。しかし、多く企業ではその当たり前のことが、その「こういうもんだよね」という諦観によってまかり通っています。例えば、通常以上の営業利益をもたらす製品を開発したところで、売れる以上の量を生産してしまっては、全く意味がありません。そういう当たり前のことを、当たり前として認識し、理想に向かって愚直な努力を繰り返すことです。「なぜ」と繰り返し問うことも、表面上であれば誰にだってできます。しかし、その繰り返しにより、一人一人のバイヤーや生産管理の担当者が真の原因を見つけ、自発的に改善を実現するレベルに達する必要があります。JIT生産から学ぶことは、まさに個々人の成長手法と言ってよいでしょう。