調達戦略書はなぜゴミ箱に捨てられるのか
衝撃的な話をせねばなりません。
しかし、その前に、あえて別の話からはじめます。みなさんはマイルス・デイヴィスというアーティスト(ジャズ奏者)を知っているでしょうか。どのような作品を産んだかは調べてください。私はほとんど興味がなかったものの、ある日、池田満寿夫さん(芸術家)が氏のアルバムをデザインしていることを知りました。その可憐さに心奪われた私は、マイルス・デイヴィスの作品を聞くことになりました。
1920年代から勃興したジャズは、たしかに大衆の心をつかみました。しかし、50年代、60年代と、ロックが席巻しました。ビートルズ、ローリングストーンズなど、そのビジュアルも話題になったのは、同時期に誕生したテレビと無関係ではありません。
マイルス・デイヴィスは、ここで葛藤します。古典的なジャズではダメだと。マイルスは鮮やかなほど自分のスタイルを捨て、脱構築し、まったく新たなスタイルを築き、ジャズの神になりました。
最近、音楽の聴き放題サービス(アップルミュージック)でジャズを聞くのですが、かならずしもマイルスだけが卓越したわけではありません。他にも恐るべきアーティストがいたとわかります。しかし、彼らはほとんど残っていません。変化できなかったからです。
かつて、クラシック音楽はサロンで演奏されていました。そののち、大衆化し、音楽ホールが誕生しました。サロン時代は技工を競ったものですが、ホール時代には難解さではなくメッセージ性が重要視されました。聴衆の好みが変わったのです。ワーグナーなどは活躍しましたが、流れに乗れない音楽家は淘汰されました。
ここまで来て、現代の話です。
注意せねばならないのは、淘汰されたひとたちも、きわめて高い能力やスキルを持っていたことです。その有無が問題ではないのです。変化できたか、抗ったかが問題なのです。
衝撃的な話をせねばならない、と書きました。先日、調査したのですが、日本の製造業はほとんど調達戦略が機能していません。その事実として、製造業の過去数十年のデータを見てみました。なんと、原材料などの値上がり、値下がりと、製品の製造原価はほとんど同じ動きをしています。率まで同じです。これは、おそるべきことです。つまり、日本では調達戦略が必要と叫ばれながら、結果として、原材料の値上がりに翻弄されているだけなのです。
原材料の値上がり値下がりを超越するような戦略は、ほとんど不在です。
マイルス・デイヴィスの話にふたたび戻します。他のジャズ奏者は旧来の方法に固執しました。そして結果として落ちてゆきました。調達・購買の業務を無理やり結びつけるとすれば、旧来の方法に固執して、現状追認の業務を続けるならば何が待っているでしょうか。
調達戦略という名前はかっこいいのですが、実際には上司への報告用に使われるだけで、美辞麗句が並び、報告の翌日からはゴミ箱に捨てられるのがオチでした。なぜゴミ箱に捨てられるのか。現状追認だから、あえて見る必要もないのです。
みなさんにお願いです。
みなさんの会社の製造原価比率を見てみて下さい。あるいは、売上高に対する、調達費比率でもかまいません。それは、主要材料の値上がりと値下がりと、ほぼ同じ動きをしていませんか。
ほんとうの調達戦略を考える時期がやってきた、と思うのです。