仕事のまかせ方(牧野直哉)

最近ではいろいろな企業で日常的に開催されているサプライヤーを集めての
ミーティング。過去に私が企画していた頃は、受注量も拡大基調で、競合他
社に先んじてサプライヤーの生産能力を確保することに躍起でした。従来以
上の情報をサプライヤーへ開示して情報共有が実現し、ミーティングが軌道
に乗っていました。そんな時、マンネリ化を避けるため変化が必要と思った
私は、職場で開催形式の変更を提案します。そして、別のチームの提案が採
用されました。開催へ向け着々と準備が進んでいるはずだったある日、こん
なことがありました。

今回の仕切り役はあるチームのリーダー。私はプログラムの詳細を彼にきい
てみました。「×××さんの講演内容はどうなっているの?」そのリーダー
は、すぐにこう答えました。

「それは、×××さんに頼んでありますよ」

ん?!なんか少し違和感を持ちました。×××さんに頼んであろうがなかろ
うが、そのリーダーが責任者です。プログラムの内容を把握していなくては
困らないだろうか、そう思ったのです。なにを話すのかを知ってなくて大丈
夫なのか。その時にバイヤー企業として一番サプライヤーへ伝えたい趣旨と、
講演内容に齟齬はないのか。続けてそのリーダーに内容を尋ねると、彼は何
一つ悪びれることなく堂々とこう回答したのです。

「内容はわかりません。×××さんを呼んで説明してもらいましょうか?」

私は我慢しました。呼んで話を聞いてみようと。ところが次の発言を聞いて
怒りが爆発してしまいます。

「おーい○○(部下の名前)、×××さん呼んでくれる?」

そのリーダーは、内容や×××さんに関してなにも掌握していなかったので
す。企画していたサプライヤーミーティングは、重要なサプライヤーが数十
社一堂に会するとても貴重な場です。当然、同僚のバイヤーたちも過半数が
出席します。費やされる時間をコストに換算すれば、膨大な金額になります。

私はそのリーダーと時間をかけて話し合いました。すると、仕事の「まかせ
方」について大きな勘違いをしていることがわかりました。彼は実作業だけ
でなく責任までも分担していたのです。実務を部下に指示することは問題あ
りません。しかし、バイヤー企業としてサプライヤーに将来を語り、協力を
仰がなければならない場を創り上げることへの責務への認識は甘いと言わざ
るをえません。そのリーダーは、役割分担という名のもとに部下に一切をま
かせ、内容を掌握しないことで責任を放棄したのです。そして一番大きな問
題は、彼自身にその自覚は一切ないことです。

私は開催を提案し、企画して開催を重ねてきました。当然、私自身だけの力
でやったなんて思っていません。上司、同僚の皆さんの理解と協力があって
実現された賜物です。しかし、当日のそれもメインの講演者の話す内容であ
れば、必ず事前に確認していました。主催者として自社内に開催内容を事前
に説明することも必要でしたし、全体感を掌握することは自分に課せられた
責任とも思っていました。そして作業は分担できるが責任は分担できないと
いう信念もありました。私は、あらたな企画の提案者であるそのリーダーに、
内容から会場設営などすべてにわたって統括する責任を当然担ってくれるも
のと思っていました。ところが責任も含めて部下に振ってしまっていたので
す。

もし、リーダーというポジションにある皆さんが、同じような失敗を犯して
しまったと仮定します。残念ながら、皆さんは永遠に本質的なリーダーの仕
事をすることはできないでしょう。もう一つ下のレベルの仕事しかできませ
ん。以降、私はそのリーダーに変わって、サプライヤーミーティングの準備
を進めました。私にとっては慣れたプロセスです。しかし、そのリーダーに
とっては初めての経験も多かったはずです。働いてゆく中で最も貴重なチャ
レンジの機会を失ったことになるのです。これはもっとも避けなければなら
ない事態です。

以降私は、役割分担を決める際、以前に増して作業分担と責任分担を分けて
考えるようになりました。そして。責任を果たすために臨機応変に作業を変
更したり付け加えたりすることが重要だと合わせて考え、伝えるようにして
います。いうなれば、責任付与というスキルでしょうね。そうでなければ、
いつまでたっても責任者は自分ということになってしまうのです。

20代は、自分の仕事に関するフィールドを広げる時期。30代は、自分ででき
る質を向上させかつ、後進たちへ自分の培ったノウハウを教え始める時期。
そして40代以上は、責任を担って、部下・後輩たちが心地よく仕事ができる
フィールドを整備するべきだと考えています。ここでは「何歳代」と区切り
ましたが、その年齢になったから自然とできるものでもありません。一つ上
を自分で意識して取り組む必要がある、そう考えるのです。

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