逆風下のサプライヤーマネジメント
生産能力不足、材料費の高騰、働き方改革による残業規制で、調達・購買部門は、まさに四面楚歌(そか)だ。従来の業務も、これまでと同じ方法では、同じ成果が出にくくなっている中、新たな課題も到来し、調達・購買部門ほど残業規制が疎ましく思える部門もないはずだ。
しかし、多忙さの中に埋もれるのではなく、1つだけ記録しておくと、後々役立つ情報がある。今、このタイミングでしか記録できない重要な内容だ。それは、サプライヤーの忠誠度である。
調達・購買部門だけではない。サプライヤーも今、厳しい状況に置かれている。すでに能力いっぱいの仕事を抱えているのは想像しやすいだろう。問題は、その中身だ。過去に比較しても、決して仕事がやりやすい形で受注できていないのが実情だ。
そして、サプライヤーのリソースは、劣化を進める要素が満載だ。人手不足や残業規制によって、仕事をこなすための労働力確保も十分にはかなわない。そして、質的にも量的にも拡大を目的にした投資、特に日本国内のリソース拡大には消極的だ。
調達・購買部門も逆風なら、サプライヤーも今、逆風のまっただ中にある。厳しい状況であればあるほどに、サプライヤーの営業対応は変化せざるを得ない。現在でも多くの企業で行われている「選択と集中」といった取り組みを、サプライヤーは顧客に対して強いられているのである。今、サプライヤーのさまざまな回答が芳しくなかったり、バイヤー希望の希望にはほど遠い内容だったりした場合、サプライヤーの選択した枠から漏れている、漏れかかっているかもしれないのである。
ここまでお読みになって「もしや」と思われたサプライヤーがいれば、2つの取り組みが今必要だ。1つは、サプライヤーがそのように思い至る原因を、バイヤー企業自らが作っていないかどうかを自問自答するのである。人間誰しも自ら問い答えるのは難しい。特に従来自分と相対的に弱い立場にいたサプライヤーと仕事をしていた場合は、その責任をサプライヤーに求めがちである。そういった状況もあるかもしれない。しかし現在の厳しい経営環境を乗り切るためには、サプライヤーの協力が欠かせない。しかし、その協力が得られないかもしれないのであれば、サプライヤーの責任はまず置いて、自分たちに何か原因はなかったのかの自省が必要なのだ。
その上で、2つめのサプライヤーの取捨選択である。欠かせない自社ではない顧客を優先するサプライヤーが本当に必要なのかどうかを見極める必要がある。もし、自社の事業運営に欠かせないサプライヤーから選ばれないのであれば、それは確実に調達・購買部門のサプライヤーマネジメントの失敗である。
すべてのサプライヤーから選ばれるのは、よほど強い購買力をもつバイヤー企業に限られる。調達・購買部門がおこなうサプライヤーマネジメントのキモは、バイヤー企業がサプライヤーを選ぶのと同じく、サプライヤーもバイヤー企業を選び、相思相愛の関係構築だ。そういったサプライヤーが、多ければ多いほどに、バイヤー企業の事業運営は円滑に進むのである。
こういったご時世なので…と、なにもかも環境の責任にするのはバイヤーの責任回避でしかない。もし、今サプライヤーとの関係が苦境に立っているのなら、過去何らかの問題を棚ざらしになっていないだろうか。約束事が守れているだろうか。例えば、事前提示の数量を著しく下回った数量しか買っていないといった例は過去になかっただろうか。問題そのものを回避するだけでなく、問題が発生したときに、その影響をサプライヤーだけに押しつけていないだろうか。バイヤーには今、自省が求められているのである。