ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●6-6区別したサプライヤへの対処(運用方法)

6-5ではサプライヤを区別する条件を3つ設定しました。3つのカテゴリに対して、それぞれどのようにバイヤ企業としてアプローチをおこなうのか、一般的な事例を次の通りおしらせします。

☆現在の事業運営に欠かせないサプライヤ

区別する条件:総購入額に占める1社あたりの購入割合が多く、購入総額の80~90%を購入しているサプライヤすべてを対象

この条件は、重要サプライヤを見極める際に、多くの企業で既に採用されています。取引先協力会を組織する際も、多く採用されている加入条件です。サプライヤ側も、バイヤ企業側も、双方で理解のえやすい「区別」の方法です。双方での理解は、効果的なサプライヤマネジメントの実践では、もっとも重要な前提条件です。多くの企業で、こういった条件が採用されているのも、理解できます。

しかし、「購入額」とは既に過去のデータである事実を忘れてはなりません。企業経営に必要となる戦略立案は将来を見据えておこないます。このカテゴリのサプライヤ選定には、ある程度のサプライヤの入れ替えは必須です。過去から現在にかけて重要であったサプライヤが、将来にわたっても変わらず重要であるとは限りません。ビジネス環境の変化に対応して初めて過去と同じ状態が維持できます。現時点では重要であっても、次に述べる将来の必要性が薄ければ、重要サプライヤから一般サプライヤへと対応を変えなければなりません。そういった現実をサプライヤに危機感として感じとってもらうことも、この区分のサプライヤに対して必要です。

☆将来の事業運営に必要なサプライヤ

区別する条件:将来的に必要となる技術をもっており、技術的なサポートを受けている

購入額条件と異なり、将来的な必要性によって重要性を判断する企業はまだ少数です。この条件によって選定したサプライヤが、本当に重要となるかどうか、調達購買部門で確証がえられないためです。この条件で選ばれたサプライヤは、現時点での購入額は少ない場合も多くなります。したがって、この区分に該当するサプライヤは、購入要求部門へのヒアリングが欠かせません。もちろん、こういった情報収集を目的に、普段からアンテナを高くした感度の良いバイヤであるべきです。情報を収集するためにも、購入要求部門とは良好な関係を築きます。そして、この区分のサプライヤには、将来的なビジネスプランの提示と、新しい企画や、バイヤ企業の開発案件の具体的な取り組みのスケジュールを明示して、サプライヤのバイヤ企業への高い関心を継続させる取り組みが必要です。

☆代替ソースが存在しないサプライヤ

区別する条件:他の購入ソースをもたないサプライヤで、供給の停止が、バイヤ企業の死活問題

この区分のサプライヤへの対処が一番困難です。サプライヤからの購入品には、希少性と優位性があるはずです。その2点の特徴をもって、サプライヤはあらゆる購入条件を優位に設定するでしょう。調達購買部門にとって対応に苦慮する場合も多くなります。具体的な対処方法は次の2つです。

①「買わせて頂く」との姿勢でサプライヤへ対処
バイヤ企業が行使する影響力の対象を絞りこみます。QCDすべてでなく、バイヤ企業として譲れない部分に限定して、それ以外の部分はサプライヤの意向を優先します。こういったケースでは、バイヤ企業主導での価格交渉が難しくなります。サプライヤも自社の優位性を前面に出して、言外に強く価格を出張してくるはずです。調達購買部門としては、価格以外のQ(品質)やD(納期)といった面でのバイヤ企業の価値を最大化することを目指します。

②災害やサプライヤ自身のトラブルによる供給停止への対応策を講じる
代わりが存在しないサプライヤに、どのように供給責任をまっとうするかを明確にさせます。例えば、一定期間の在庫を確保するといった条件を購入の際に申し入れます。他に購入ソースがない場合、安定納入がもっとも重要なファクターとなります。サプライヤの条件を認める代わりに、どのように安定供給を実現するのかを、サプライヤに厳しく問わなければなりません。

また、バイヤ企業では、独占状態にあきらめ、あるいは甘んじずに、代替サプライヤの模索を継続的に実施します。長期的な視野では、この取り組みによって、あらたな供給ソースの発見がもっとも効果的な独占サプライヤへの牽制(けんせい)要因になるはずなのです。

(つづく)

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