バイヤーのトラブルシューティング 2

前回、納期遅れを発生させたサプライヤーの実態掌握が必要であるとお話しました。実態掌握とは、サプライヤー社内で発生しているさまざまな業務の種類をすべて理解する。この「理解」とは、内容と所要日数です。

納期遅れを発生するからには、バイヤー企業の注文書発行から、注文書に記載された納入日まで、具体的な日数が設定されているはずです。その設定された日数を超えて所要日数が必要になると納期遅れが発生します。前回でも話をしましたが、この詳細の確認を行っていくだけで、納期遅れの原因が判明するケースがあります。

注文書の発行から納入日まで30日だったとします。実際に工程を確認してみると、材料調達、社内加工、外注加工、組み立て、検査、梱包、出荷といった細かい工程が存在し、所要日数の合計が30日を超えてしまう場合があります。この場合は、そもそも30日のリードタイム設定に無理があった、強いて言えばサプライヤーの納期管理全体に問題があったといえます。

過去のさまざまなケースをひもといてみても、納期遅れの過半数以上の原因は、そもそも見積書に記載されたリードタイム、あるいは事前にサプライヤーから聴取したリードタイムの設定に問題があるケースがほとんどです。こういった事例が頻発するのは、ひとえに昨今の短納期化の影響です。

そして、こういった状況で見逃されがちなのが、工程と工程の間に存在する横持ちや、生産タイミングを調整するための手待ちといった時間がリードタイム全体に全く反映されていない実情です。なぜこのような事態が起きるのでしょうか。

昨年の2月、宅急便を運営するヤマト運輸の労働組合が会社側に引き受け貨物の総量規制を願い出ました。日本国内の貨物取扱総量は年々減少していますが、小口貨物の増加により、取扱個数は増加の一途を辿っています。こういった環境によって、ヤマト運輸の貨物引受条件が昨年来厳しくなっています。例えば従来であれば18時までは発送が可能だったものが、17時、あるいは16時までしか当日発送ができなくなっています。従来であれば自社の工程の後発送して、翌日には協力会社で作業できていたものが、発送までに1日多く必要になる可能性が高まっています。

また、輸送量の値上げは、できるだけ小口の発送を避け、まとめて送って輸送量削減させようと考えますね。誰しもが思いつく輸送費削減のアイデアです。

最終的にお客さまに納入する期日は、コスト削減よりも期日優先といった考え方が働きます。しかし企業内の中間工程における納期は、契約納期ではありません。あくまでも社内で設定する期日です。したがってコスト削減ニーズが働きやすく、従来であれば毎日外部の協力会社に発送していたものを、数量がまとまってから送るといった形に変化しているのです。

そんな環境変化があったとしても、サプライヤーの社内の仕事を処理する能力には変化がありません。これは、バイヤー企業も同じです。小口でモノを動かしているときは、タイムリーに社内で処理できたかもしれません。しかし、物量を多く動かそうとするとき、小さい単位の物量で見たときと比較して、個々の工程では必ず「手待ち」が発生します。これは、どのようなものであっても必ず発生します。こういった事情を理解せず、従来と同じもしくは従来よりも短く納期を設定してしまうと、当然ながら設定したリードタイムに収まらずに遅れが発生ししまうのです。

バイヤーであれば誰しも納期遅れを頻発させたくはありません。であるならば、解決をサプライヤー任せにせず、バイヤーがサプライヤーを訪問して、その原因を明らかにして具体的な原因の除去を行うべきです。そしてサプライヤーを訪問した上での詳細確認は、後々にバイヤーに大きなメリットを組みます。

納期遅れ解消のプロセスで、バイヤーは具体的にどういった工程にどの程度の時間が必要なのかを掌握できます。バイヤー企業が掌握するのは、各工程バラバラの所要時間です。これはまさに、コスト情報に直結する貴重な情報です。もちろん、所要時間の情報だけでは具体的な数値にはなりません。例えば、感覚的にでもサプライヤーのレートを掌握していれば、時間×レートでコストを算出できるのです。算出結果で、購入価格の妥当性も判断できるのです。

通常であれば作業に要する時間は掌握しているかもしれません。しかしこういった取り組みでは、実作業時間の前後に発生する段取りや事前準備の時間まで含めて情報入手を心がけます。そこまでの情報が得られた場合、これ以降の価格交渉やコスト削減の取り組みに有効なバイヤー企業が新たなアイデアを生む可能性もあるのです。納期遅れ=問題を発生させた立場を徹底的に活用して、足元を見てバイヤー企業に有効な情報を引き出すのです。

「足元を見る」といった行為に、あまりいい印象を持たれていない方もおられるでしょう。しかし調達・購買部門に対して、サプライヤーが足元を見てくるケースは逆に増加しています。昨今の原材料費や人件費アップに伴う値上げ要求など、基本的にはサプライヤーから購入せざるを得ない調達・購買部門の最も大きな弱みにつけ込んでいるとも言えるのです。サプライヤーに真摯(しんし)にかつ謙虚に対応しているのであれば、何か問題が起こったときに二度と再発させないための取り組みは、誰からも非難を受けるものではありません。したがって問題が発生したタイミングを逃さずに、バイヤーの将来に活用できる情報入手をおこなってください。

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