ほんとうに泣けるバイヤーの話
メールマガジンサンプル「見積りのウソの見つけ方」1回目(坂口孝則)
・コストを分析するのか、あるいは競合だけで下げるのか

サプライヤーのコストが、バイヤーの思い通りに下がったらどんなに良いだろう。

ある人はこう言う。「サプライヤーの原価構造をちゃんと把握して、それをもとに見積書を分析するべきなんだよ」。そう思えば、違う人はこう言う。「そんなことやっても意味がないよ。サプライヤーのコスト(見積り)を下げようと思ったら、競合するか、あるいは交渉して値下げしてもらうしかないよ」と。

どうも、その発言に代表される、二つの派閥があるようだ。前者は「コスト分析一派」、後者は「競合一派」である。前者は自動車メーカーの調達・購買部や一部の電機メーカーに多く見られる。また、後者は建設業界や医療、それに多くの間接材の領域で多く見られる。

そのどちらが正しいのだろうか。この論では、その両方の有効性と正しさ、そしてそれぞれの限界点を指し示していく。

まず、「コスト分析一派」である前者が「サプライヤーの見積りを分析せよ」というとき、それはサプライヤーが見積りの詳細情報を提出してくれる、という前提がある。たしかに、サプライヤーの見積り詳細(たとえば「材料費がいくらだ」とか「アッセンブリ費がいくらだ」とか)の情報があれば、おかしな点を見つけるのはたやすい。また、それをネタに交渉もできるだろう。

しかし、前者に属する大部分の人たちが失念しているのが、「ほとんどのサプライヤーは、そのような詳細見積りを提出してくれない」ということだ。もちろん、自動車メーカーや一部の電機メーカーの調達・購買部門に属する人たちは良いだろう。サプライヤーが提出してくれるから。でも、大半の中小企業の調達・購買部門にたいしては、サプライヤーは詳細見積りなど提示してくれない。ここに大きな径庭がある。

では、そのような場合は「競合一派」のように、なんでもかんでも競合さえすればコストは下がる、といっても良いのだろうか。それは、常にあやうさがつきまとう。相手のコスト構造を知らないで、競合にだけ頼って交渉してしまうと、たしかに交渉前よりは下がるかもしれない。しかし、下がったあとのコストが「最適である」とどうしていうことができるのか。あるいは、「このサプライヤーは見積りを下げすぎていて、危ない水準にある」という危険感知ができるだろうか。また、単に見積りの表面だけを見ているバイヤーなど、ほんとうの「プロフェッショナル・バイヤー」と言えるだろうか。

どうやら、答えは前者と後者の中間にあるらしい。

・原価分析と政治判断の狭間で

ここで、一つの図を見てほしい。ある製品のコストの原価を分類したものだ。



<図をクリックいただくと、大きくすることもできます>

材料費と加工費の原価を積み上げて、まずサプライヤーは製品のコストを計算する(=「原価分析領域」)。その後、どれくらいの販売費・一般管理費を加算するか、そしてどれくらいの利益を加算するかを決める(=「政治判断領域」)。

多くの場合は、「原価分析領域」をサプライヤーの工場部門が計算し、「政治判断領域」は営業部門が計算する。とはいっても、一から計算するわけではない。販売費・一般管理費、あるいは利益は一定率が決められており、それを加算してバイヤーに提出する見積りとするわけだ。

ここで、一つの、当たり前ともいえる事実が明らかになる。これまで、「コスト分析一派」と「競合一派」に分かれていたように感じられた、調達の二手法は、実は分離しておらず、両方とも共存すべきだということだ。

「原価分析」だけでは、サプライヤーの販売費・一般管理費、利益といった領域には踏み込むことができず、高価格の見積りに反駁できない。また、「競合一派」の競合だけでは、販売費・一般管理費、利益をサプライヤーに削ってもらうだけで、ほんとうのコスト構造の低下を促すことができない。

両者は、どちらが正しいというわけではなく、単に攻める領域の違いだったのである。そして、どちらの方法を取るべきだ、ということではなく、両方を使い分ける必要があったのである。ときには原価分析ができるバイヤーとして、そしてときには政治的に安価な価格を引き出すことができるバイヤーとして、である。

・サプライヤーのコストの分析

さて、もう一度、さきほどの図を見ていただこう。



<図をクリックいただくと、大きくすることもできます>

原価分析が無用ということはない。原価分析を実施することで、土台を把握する。そして、その土台にたいして、どれだけの「販売費・一般管理費、利益」を加算するかを交渉するのだ。「交渉」といっても、その手法はたくさんあるだろう。もしかすると、相見積もりかもしれない。あるいはリバースオークションかもしれない。対面の「交渉」だっていい。

それら手法の一つのみが絶対だと信じることはせず、広い意味での「交渉」の一手段だと考えることが大切だ。

そして、ここでさらにこの見積書(サプライヤーのコスト)を分解してみよう。

 


<図をクリックいただくと、大きくすることもできます>

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「サンクコスト」とは、サプライヤーが「すでに支払ってしまった」コストことだ。加工費が「サンクコスト固定費」になっているのは、加工費の大半が設備の減価償却費であり、すでにその費用は外部に支払われている。だから、「最悪この分は値引いてもいいかな」というコストだ。

それに対して、「非サンクコスト固定費」は、これから支払いが生じるもの(考えてみればわかるとおり、社員の給料などはこれから支払いが生じる)だから、「できるだけこの分は値下げしたくはない」という思いをサプライヤーは抱く。

また、材料費は「変動費」(生産に応じて必ずかかってしまうコスト)だから、この分をサプライヤーが下げることはほとんどない。

・見積りを下げるには、二つの力が必要だ

やや衒学的すぎるかもしれないが、ちょっとお聞きいただきたい。具体論は第二回以降、順次論じていく。

サプライヤーの見積りを入手したとする。これまで説明してきたことは、このようなことであった。

競合だけではなく、見積り分析だけではなく、両方の手法を使う必要がある

まず見積り分析によりサプライヤーのコストを検証する(「原価分析領域」)

その後、主にサプライヤーの利益に関わる領域について検証する(「政治判断領域」)

ここまでは、調達・購買部長の仕事ではなく、調達・購買課長の仕事でもない。担当者の仕事である。

ときに、若手バイヤーから「ウチの業界は、上どうしの話し合いで価格が決まっちゃって、担当者が力を発揮できることがないんですよ」と聞かされる場合がある。「なるほど」と私は一旦は頷くけれど、「ほんとうにそうか」と思ってしまう。それは、「政治判断領域」のことを言っているのであろう。しかし、担当者が担うべき「原価分析領域」をちゃんとまっとうしているのだろうか。

サプライヤーから見積りが、まさかすべて政治判断で決まっているわけではあるまい。サプライヤーだって、原価計算をして、「提示できる見積価格」を決めているはずだろうからだ。「上どうしの話し合いで価格が決まっちゃって、担当者が力を発揮できることがないんですよ」と言ってしまうことには、ある種の弱さを感じてしまう。それは、「若手バイヤーよ、もうちょっとしっかりしろ」という叱咤の裏返しではあるけれど。

では、そのようにして「原価分析領域」と「政治判断領域」が分かれていることを、私たちは知ることができた。では、その「原価分析領域」はどのように計算すれば良いのだろうか。そして、「政治判断領域」の適正な値とはなんだろうか。

それらを暴いていく過程で、当初の見積りに多くのウソが含まれていることに気づくだろう。同時に、サプライヤーが見積りにウソを紛れ込ませておかねばならない背景についても、理解してもらえるだろう。

(次号につづく)

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