ほんとうに泣けるバイヤーの話
東日本大震災後の調達・購買・資材担当者へ(坂口孝則)
調達・購買・資材に関わるみなさまへ

昨年、企業全体で約60兆円ものコスト削減が成し遂げられたという。もちろん、そのなかには調達先と喧々諤々の議論を交わしたもの、騅逝かぬもの、あるいは容易ならざるもの、ときとして調達先に迷惑をかけたものがあったかもしれない。しかし、そのような現状があってもなお、各企業の調達・購買・資材部門の一定の成果として讃えあげられるものだろう。
調達・購買・資材改革のはじまりとして、まずは祝辞を申し上げる。みなさんの活動がなければ、今年度はより利益減少が進んでいたことだろう。

世界金融危機が終わったとたんに、さらなる災難が私たちに降りかかっている。それはいうまでもなく、東北沖の震災だ。海外メディアを中心とするひとたちは、日本メディアが報じない悲惨な状況を刻一刻と写真とともに報じている。情報鎖国がとかれた今、それを見ることは大変つらい。
これまで「リスクヘッジ」という言葉が叫ばれた。しかし、いまはそのような教科書的な言説を無為にしてしまうほどの、徹底した、そして無残な状況が目の前に広がっている。このような惨事の前には、私たちはなすすべもなく佇むしかない。
しかし、同時に、たしかに私たちはこれからも一歩一歩進んでいくしかない。なんとか会社を復旧させ、日常に戻ることのできるように努力するほかない。

調達・購買・資材のみなさまは、多くが数年後に違う部門に異動してしまうだろう。では、長い会社員人生で、いやビジネスパーソン人生において、調達・購買・資材部門に属することとはいかなることか。他の部門とどのような違いがあるのか。
調達・購買・資材部門で働くとは、価格を下げるためであるという。なるほど、それは間違いないだろう。コスト削減には終わりはない。また、納期を確保するため、新たな技術品を摂取するため、さまざまな目的は論じられる。

ただ、調達・購買・資材部門だけがコストを抑えるところではない。また、納期の確保も品質も、技術調達も、いかなる部門が携わり、むしろ他部門が主導していることも多いだろう。むしろ、調達・購買・資材部門の役割はコスト削減だ、というとき、ある種の特権性や独自性をことさら強調したい側面があると言ってもいい。
誰かは人脈を得るためだという。ただ、ほんとうに人脈を得るだけのためならば、どこかの異業種交流会に参加したほうが効率は良い。また、当初から人脈そのものを目的とした人脈構築など、ほとんどありえないだろう。
調達・購買・資材部門は、比較的、ラクな部門だという人がいる。なるほど、買う立場と売る立場では、たしかに前者のほうが精神的にもラクなことはあるだろう。余計な気を使わずとも済むことも多い。しかし、これには言葉もない。仕事とは、これまでのおのれの人生観を覆す可能性さえある真剣勝負の場である。目の前に横たわる業務に熱中することしか私たちには残されていない。

では、調達・購買・資材部門での人生の季節とは、いかなる季節なのか。
あえて、象徴的に言おう。
その季節とは、その時間とは、「おのれの無力さを知る」ためのものではないか。

代言すれば「自分の知らない世界の一端を見る」ためのものだ。他部門であれば、見知らぬ調達先に行って、ただ驚くことはできない。驚き、その驚きそのものを発することはできない。技術者であれば対峙することが求められる。営業部門であれば、そもそもそのような機会は少ない。

技術者であれば、自分の範囲は限られる。ただし、調達・購買・資材部門であれば、調達先の領域も、そして国々も、大きさも多様だ。しかも、その責任範囲は、かなり広い。
あるとき、新技術をもつ調達先があったとしよう。あるいは、業績的に呻吟している調達先があったとしよう。または、コスト競争力をもつ調達先があったとしよう。調達・購買・資材部員であれば、ただただ、「そこに行く」ことが許されている。私であれば、いまはできない。

 「今日、また自分の無力さを知ってきたよ」

いまは、私はそのような言葉を発することができない。無意味に、どこかに行くようなことがあってはならない。
ただし、調達・購買・資材部員であれば、何気ない行動すらも許される。調達先のさまざまな取り組みに、1円でもコストを下げようとする試みに、少しでも品質をあげようとする真摯さに、その優劣とは別に、人為と努力の重なりに、世界を見つめる眼差しが変化を起こすに違いない。人びとが今をより良くしようとしている事実そのものが、ある種の愉悦すらも与えるだろう。
そうして、自分が知っていることが、世界の欠片でしかなく、自分の無力さと、同時に可能性すらも感じることができるだろう。

現在、調達・購買・資材部員の目の前に広がっている景色は、そのような希望にあふれたものではない。むしろ、悲惨で無残な、どうしようもない現実かもしれない。
しかし、私たちは、その現実を直視することからしか始めることはできない。自分の仕事がどんな意味をもつかを自ら問い、その絶望を噛み締めるしかない。広がる世界の多様さと、不条理を理解することで、より大きな自由を獲得するよう、少しずつ前進するしかない。目の前の業務に対応しつつ、大きな世界を見つめる。今はどんな困難な時代であっても、それを直視するしかない。
落涙によって哀しみに打ちひしがれたとしても、それを粛々と受け止めるしか、私たちには残されていないのである。

仕事に、失望するべからず。仕事に愛情を持ち、真摯でさえあれば、なんとかなると楽観論を忘れるな。また、過去への惜別とともに、未来に向かって歩み出せ。

一つだけ、私の思い出を話す。
かつて、神戸大震災のとき、私の恩師は「できるだけ被災者支援をせよ」といった。「そうすれば、自分がいかに無力かを思い知る」と。私は神戸に行こうと試みた。しかし、交通事情と、おのれの意気地なさが手伝って、それは果たせなかった。
救援物資を送ろうと試みたが、それも騅逝かず頓挫した。恩師は「それみたことか」といった。「お前など、何も役に立たないだろう」と。恩師は私を批判したかったわけではない。「ただ、この無念さを知れ、そして覚えておけ」といった。
いまは何もできないかもしれない。企業の生産ラインが崩れてしまったときに、もしかすると一人の調達・購買・資材部員が何もできないかもしれない。すべてが他社、人任せになっているかもしれない。
ただ、それでもなお、「ただ、この無念さを知れ、そして覚えておけ」と。
それは自責の念を抱かせるだけかもしれない。しかし、私はこの無念さを噛み締めておくことこそが大切なのではないかと思った。
現在、日本が経験したことがないほどの惨事が広がっている。震災から時間が経過したが、まだ本格的な復旧には遠い。公共インフラだけではなく、多くの企業でも同じような状況が続いている。
私の恩師は「ただ、この無念さを知れ、そして覚えておけ」といった。私たちはこの震災を前に何ができるだろうか。そして、かつての自分と比して、社会に何の貢献ができるようになっただろうか。それを問おうと思う。
企業も、単独の行動だけではない。ライバル会社の生産ライン復興を試みるところや、会社の懸隔に関係なく、さまざまな救助に名乗り出ているところもある。ここまで書いて、私はふたたび、調達・購買・資材部門の季節について考える。「おのれの無力さを知る」ということを。そして、自分が生きるとはなにか、共生とはなにか、自分が成し遂げるべき目的とはなにか。そのことが頭から離れない。
テレビでは、震災に遭い、すべての建家や財産を失った企業経営者がインタビューに答え、言葉に詰まり号泣していた。私たちは、この人たちに何ができるだろう。それとも、私たちは「おのれの無力さを知る」段階にとどまるのだろうか。
その答えは、一人ひとりのなかにしかない。

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2013年04月15日
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てもっていなかった方、すぐに使えるのでオススメです。

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1.サプライヤ評価表
2.サプライヤ納入品質評価表
3.サプライヤ各種経営評価表

の三つのシートになっています。
ファイル形式:エクセル(xls/xlxs)
2013年04月12日
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著者本人が当時の自分に嫉妬してしまうほど熱い文章で、あなたに伝えるメッセージ。

「過激な調達はいつも正しい1 ~調達・購買担当者を変えるささやかではない方法~」は、坂口孝則の人気メールマガジン「世界一のバイヤーになってみろ」より、2007年の1月から2007年8月までのものを、加筆修正致しました。

いまは、ここでしか手に入りません。

「過激な調達はいつも正しい1 ~調達・購買担当者を変えるささやかではない方法~」
2012年06月05日
購買ネットワーク会が主催する「購買・調達講座 私塾」のなかの人気講座の資料が音声解説と共に発売
購買ネットワーク会が主催する「購買・調達講座 私塾」のなかの人気講座の資料が音声解説と共に発売。バイヤーに必要な12個のスキルを実践的なケーススタディーとともに解説する12回連続講座の初回。

関連部署とコラボレートして結果を出す。購買・調達部署のプレゼンスをあげて会社に貢献する。このような幻想を捨てさせる第一回目。会社が購買部門に求めることは企業戦略によって異なる。その企業戦略に合わせて購買プロセス、ルール、役割、バイヤー教育を作らなければいけない。

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2012年03月09日
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「モチベーションで仕事はできない」の連動講演を音源化。
2012年02月25日
坂口孝則講演「なぜあの商品が売れるのか」~お客様に考えさせない販売戦略
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2012年01月29日
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2012年01月28日
「ほんとうの調達・購買・資材理論」クレジットカード決済可能に
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2011年01月28日
サイトオープンいたしました!
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