・SHAREというトレンド
SHAREとは、同名のヒット本があるとおり、私が2011年のキーワードとなるであろうと予想するものです。SHAREって何でしょうか? 「共有」のことです。これは「FREE(無料)」ほどのインパクトはないかもしれません。ただ、このSHARE=共有の重要性は、静かなれど高まってくるはずだ、と私は思います。
たとえば、このような例を考えてみましょう。100g=100円の材料です。単純な例ですけれど、この場合は、1gあたり単価は1円ですよね。

<クリックすると図を拡大できます>
ただし、ここで考えたいのは、多くの企業で調達したこの100gを使い切れないということです。要するに、在庫化してしまって、最後は捨ててしまいます。材料を捨てるイメージがないのであれば、部品100個でもかまいません。自動車産業のうち、完成車メーカーはたしかに在庫が少ないでしょう。「作る分しか調達せず」の原則はたしかに守られているように思えます(個人的な経験から)。ただし、そのような例は稀で、多くのメーカーは、無数のものを調達しては、かなりの量を廃棄しています。
この場合は(あくまで話を分かりやすくするための例ですが)、100gのうち30gを廃棄してしまうことにしましょう。そうすると、実質の1gあたりコストは上昇します。

<クリックすると図を拡大できます>
当たり前ですよね。3割も捨ててしまうわけですから、100÷70で、1gあたり単価は1.4円になってしまいます。多くの企業では、このような考え方はしません。使った分はあくまで1g=1円ですし、廃棄分は廃棄分として計上します。また、会計上は廃棄すれば税金が安くなる(その分の利益が減じる)ため、ややこしいのですが、今回は簡易的に説明しています。いずれにせよ、廃棄分まで考えると、実質的な単価は上昇してしまうわけです。
そこで考えるべきは、「必要数量のみ調達できないか」ということです。30gぶんは調達しないので、ほんとうに必要な70gだけを調達したい。必要分だけ調達する代わりに、調達コストが上がっても良い。そんな考え方もあるわけです。
ここで、100g=120円の材料があるとしましょう。100g=120円の材料と比べると、1.2倍にもなっています。ただし、100g=120円の材料と異なるのは、100g単位ではなく、70gでも調達できることです。残り30gは他社と共有することになります。あるいは小刻みな単位で販売してもらうことによって、不要な30gを他社に販売してもらうわけです。
そうすると、g単位の調達コストは「見た目」は1.2倍になってしまったように思えますが、実質1gあたりコストは減少します。

<クリックすると図を拡大できます>
・元の1gあたり実質単価:1.4円/g
・SHARE後の1gあたり実質単価:1.2円/g
ということで、一見高く調達したように見えながら、廃棄分を考慮した実質単価ではSHARE後のほうが安くなります。
繰り返しになりますが、本来の企業会計ではこのような考え方をしません。生産に必要な分だけを調達することになっていますから、1g=1円で計算して、廃棄したときに廃棄損を計上することになっているからです。そのような考え方のもとでは、たしかに余計なものを調達してでもgあたり単価を下げたほうが「安く」見えます。
しかし、実質使用量を考慮すると、高めに買ったほうが「安い」ということもありうるわけです。
・SHAREというトレンドの何が新しいのか
SHAREというトレンドの何が新しいのでしょうか。それは実質使用分を考慮することだけではありません。どうせ廃棄してしまう分を、他社とあらかじめ共有することは「エコロジー」的にも正しいからです。ムダがありませんからね。
また、「見た目単価は高い。でも、実質単価は安い」という流れは、他のところにも伝播しています。現在、各自治体でシステムを自作化しようとする動きが広まっています。
有名なところでは、秋田県大館市がIP電話を820万円で総導入しました。自作するわけですから、高くなります。機能あたりの運用費は、プロ(専門業者)と比較しても高い。しかし、市販のパッケージソフトや、あるいはプロにやってもらった場合は、どうしても不要な機能がついてしまいます。不要な機能も含めて単価比較をすると、そりゃ自作しないほうが安くあがります。ただし、ほんとうに必要なところだけ構築するのであれば、単価は上がっても、総コストは安くなることが起きます。
ここで、私は一つ大胆な予想をしました。「単価の上がる共同調達がありうるのではないか」ということです。
共同調達とは価格が下がって当たり前の世界です。いや、むしろ下がらないと共同調達をする意味がない、という共通認識すらあります。その「単価が上がっても良い」とはどういうことか。それはさきほど説明したように、廃棄分を考慮した実質単価が下がる可能性があるのではないかということです。
私の経験では、共同調達で単価は下がったのは良いけれど、調達量に制約がある場合が少なくありませんでした。5円の抵抗器が3円になった。ただ、その場合は100個の箱詰め品ではなく、4000個のリール品で買ってくれ、とかね。リール品で調達すると、見た目は安くなったのですが、大量の廃棄が生じます(ちなみに、廃棄分を調達・購買担当者の実績としてまったく評価しないところは、「たくさん買って下げてしまえ」というモラルハザードをときに引き起こします)。
100個の箱詰め品だって余るのです。それならば、高くなってもいいから10個単位で調達できるほうがいい。これは自然のニーズでした。BtoCの世界では「グルーポン」のように共同購入のサイトが広がりを見せています。これまで知り合うことのなかった買い手たちがネットを通じてつながる仕組み。これは、きわめて新しい試みでした(「グルーポン」では単価が下がりますが、客数の増加によって店側の固定費を減じます)。
BtoBの世界でも、もしネットを通じて複数の買い手たちが共同調達できるのであれば、SHARE的な動きは加速するでしょう。そのとき、SHARE(少ロット調達)によって、「単価は上がっても。実質単価が下がる」新たな共同調達は実現するでしょう。
「単価の上がる共同調達がありうるのではないか」。これは夢想のようでありながら、新たなコスト削減技として私が考えていることの一つなのです。 |