ほんとうに泣けるバイヤーの話
ボーナスのあと~バイヤーとしての新しい生き方を提案する(坂口孝則)
2011年の夏ボーナスが支給された(らしい)。
この数年サラリーパーソンの平均給与は下がり続け、平成21年には406万円になった。
成果報酬が色濃く反映されることになったとはいえ、全体的には憂き目が続いている。

「俺が成し遂げたコスト低減はこんなもんじゃない」。
ボーナスの時期になると、以前勤めていた会社の同僚がこんなことを言っていたのを思い出す。
大幅なコスト低減を達成したものの、一体どれだけが賞与や給与に反映されているのか。
むしろ、上司にゴマをすっている奴や、報告が上手かったり、アピール上手の奴ばかりが評価を上げているのではないか?
1億円のコスト低減は、つまりその会社が払っていたかもしれない1億円のコストを削減することだ。
少なくとも、部員はそう教えられている。
それであれば、その半分くらい、5千万円くらいは俺に報酬としてくれたっていいじゃないか、と思うのは自然な心情だろう。

私は常に、会社がどのように報うのであれ、自己の向上に取り組むべきだ、と言ってきた。
しかし、会社から受け取る報酬もやはり重要なモチベーションのファクターであることは間違いない。
そこで今回は、やや衒学的なれど、バイヤーの新しい生き方を考えてみたい。

それは、バイヤーの法人化の実現だ。
メディアが報じている通り、所得税の見直しが進んでいる。
法人税の見直しとセットで消費税の増率が議論され、それは所得税の議論も沸き起こしている。
新しい税の形はまだ見えてこないが、いまのところ所得税、住民税、社会保障費を足し合わせるとサラリーパーソンは収入の平均25-30%を国に納めていることになる。
サラリーパーソンは奴隷である、というセンテンスの背景には、サラリーパーソンのほとんどが税金の自己申告したことがなく、源泉徴収という名の搾取構造に組み込まれている、という現状がある。
(なお、私は必ずしも「サラリーパーソンは奴隷である」という主張には賛成していない)

それに対し、自営業者などは、所得を自己申告し、どれだけ税金を払うか(経費を計上するか)をコントロールしている。むろん、自営業者のハイリスクな状況を知らないわけではない。
ただ懸命に頑張っている自営業者がいる一方で、社会保障や年金を踏み倒す事業主が莫大に存在することも事実だ。
そこで考えてみたいものが、バイヤー法人化の実現である。

Aさんというバイヤーがいるとする。
半導体の購買担当で、入社7年目。サプライヤーとの人脈も多く、製品知識も営業マンと対等に交渉できるほどはある。毎年定期的なコスト低減の実績もあり、さらに向上心も高い。
Aさんは、現在の職務を継続しながら、「A株式会社」を立ち上げ、属していた企業と再度契約を結ぶのだ。
一体こうすることによって何が変わるのだろうか?
まず社長になることができる。1名だけの会社であるが、名刺には「代表取締役社長」と印刷でき、奥さんを秘書として雇うことも可能となる。
そして、企業とその「A株式会社」との契約は、業務委託契約ということになるだろう。
企業は、その「A株式会社」の口座に毎月支払いをし、AさんはあくまでもそのA株式会社から報酬という形でお金を受け取ることになる。

一人が高額の報酬を受け取っていては、日本の税法では累進課税で税率が高くなるので、奥さんと報酬を二分することにより、税率を抑えることも可能となる(もちろん、奥さんが実質的な労働者であることは必須だ。それでなければ、単なる脱税になる)。
企業にとってみても、一従業員を雇用することで発生する莫大なコストを削減することができるようになる。

あの、わけのわからない、保養地などに代表される福利厚生も削減でき、親睦目的の運動会などというムダ金も削減可能であり、場合によってはオフィススペースという空間維持費も削減できる。さらに大きいのは、企業が現状半額負担している社会保障費だ。
そして、企業と個人にとって一番大きいことは、従属関係から、企業間契約という対等な関係にシフトすることだ。

コスト低減のプロジェクトに参加し、1千万円の報酬を受け取ることも可能であろうし、あるいは現在の購買担当職務を続けながら、コスト低減率に応じた報酬を受け取ることも可能になるだろう。
そして納税の時期には、自分がバイヤーとして成長するために使った費用や、電車代から消耗品購入に至るまで、総点検し、まさにコスト意識の高いビジネスパーソンに生まれ変わることができるだろう。
パソコンや通勤に使うクルマだって、経費として計上できる可能性もある。会社に依存せずに考えるようになること自体、すごいことだ。
しかも、これは「集から個へ」「ノマド」「自立した個人へ」といったテーゼとも合致する。

もちろん、多くの問題があることは分かっている。
評価の問題がこれまで以上にクローズアップされるであろうし、企業に属すことの安心感が損なわれることも否定できない。
しかし、それでもなお、バイヤー個人の法人が生まれ出せば、バイヤーの職業観は一変せざるをえない。
コスト低減と購買戦略に対して、敏感になり、試行錯誤を今まで以上に熱心にやるだろう。
真の意味での自立が可能となる。
そして間違いなく、個人法人のバイヤーはスキルを開発し、なによりも自由を得ることができるだろう。

この文章は、フリーエージェントをむやみやたらに賛美するものでは決してない。
バイヤーという、最もスキル開発が遅れがちな領域であり、かつ多くの人たちが悩んでいる状況を打破するための、「突飛な」提案だった。
加えるならば、各社がコスト低減を強力に進めつつも、なかなか効果が出ずに手法を模索中の現在、このような個人の法人(フリー)のバイヤーを生み出し、各企業に紹介するということ自体がビジネスになりうるのではないかとすら私は考えている。

転職が一般的になる、と80年代に予言した人は笑われた。そこから20年経って、転職は「当たり前」のことになった。おそらく、フリー化が一般的になる、と予言すれば、笑われるだろう。しかし、フリー化の時代は近い、と私は思う。アメリカでは、3000~4000万人の人びとが、すでにフリーエージェントとして活躍しているという(統計にバラつきがあるのはご容赦を)。

その意味で、私は「自由」というものを誤解していた。「自由」とは獲得するものだと、ずっと思っていた。しかし、「自由」とは突然やってきて、私たちをさらっていくものだったのだ。

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2013年04月15日
NEW!「サプライヤ評価表」(エクセルファイル)が発売になりました!
何よりも必要なのは、サプライヤを公平・公正に評価すること!
バイヤーとしてあたりまえのことをあたりまえに出来ず、困っていませんか。

既に持っているけど自分のものと比較してみたい方、エクセルファイルとし
てもっていなかった方、すぐに使えるのでオススメです。

このエクセルファイルは

1.サプライヤ評価表
2.サプライヤ納入品質評価表
3.サプライヤ各種経営評価表

の三つのシートになっています。
ファイル形式:エクセル(xls/xlxs)
2013年04月12日
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著者本人が当時の自分に嫉妬してしまうほど熱い文章で、あなたに伝えるメッセージ。

「過激な調達はいつも正しい1 ~調達・購買担当者を変えるささやかではない方法~」は、坂口孝則の人気メールマガジン「世界一のバイヤーになってみろ」より、2007年の1月から2007年8月までのものを、加筆修正致しました。

いまは、ここでしか手に入りません。

「過激な調達はいつも正しい1 ~調達・購買担当者を変えるささやかではない方法~」
2012年06月05日
購買ネットワーク会が主催する「購買・調達講座 私塾」のなかの人気講座の資料が音声解説と共に発売
購買ネットワーク会が主催する「購買・調達講座 私塾」のなかの人気講座の資料が音声解説と共に発売。バイヤーに必要な12個のスキルを実践的なケーススタディーとともに解説する12回連続講座の初回。

関連部署とコラボレートして結果を出す。購買・調達部署のプレゼンスをあげて会社に貢献する。このような幻想を捨てさせる第一回目。会社が購買部門に求めることは企業戦略によって異なる。その企業戦略に合わせて購買プロセス、ルール、役割、バイヤー教育を作らなければいけない。

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2012年03月09日
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書籍「モチベーションで仕事はできない」の著者である坂口孝則が、モチベーションとやる気によらない仕事術を公開!

――本で書けなかったこと、モチベーションによらない仕事のほんとうのメリットとは

「モチベーションで仕事はできない」の連動講演を音源化。
2012年02月25日
坂口孝則講演「なぜあの商品が売れるのか」~お客様に考えさせない販売戦略
某IT企業の新春セミナーで、22人の講師のうち参加者アンケートで満足度1位となった伝説の講演を音源化
2012年01月29日
「決定版! 新人バイヤーが最初にやるべき10のポイント」発売開始!
「決定版! 新人バイヤーが最初にやるべき10のポイント」発売開始!
2012年01月28日
「ほんとうの調達・購買・資材理論」クレジットカード決済可能に
「ほんとうの調達・購買・資材理論」がPaypalではなく、クレジットカードでご購読可能になりました!
2011年01月28日
サイトオープンいたしました!
「未来調達研究所」サイトをオープンしました。

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